ハーブ・アロマ メルマガ 「佐々木薫先生のエッセイ」
vol.79
秋もハッカの季節
まだまだ続く暑さを凌ぐ香りは、やはり「ミント」でしょうか。ミントといえば「ハッカ」。日本人にとってハッカは最もなじみのある香りかもしれません。精油を採油するためのハッカは、国内ではちょうど収穫を終えた頃です。
ハッカが属するMentha属は世界中に140種以上あると言われ、交雑しやすいため、正確に分類することが難しい植物です。精油は「和種ハッカ」と呼ばれることがありますが、シソ科の多年草「和ハッカ(日本ハッカ、Mentha arvensis)」の地上部を水蒸気蒸留して抽出します。他のミントなどに比べ、ツンと鼻をつく強い香りが特徴です。おなじみのペパーミント(Mentha piperita)やスペアミント(Mentha spicata)は、ハッカの近縁種で、香りや形状、精油成分はそれぞれ異なります。ツンとくる芳香成分の正体は、メントール(メンソール)です。
アロマテラピーで用いるハッカ精油とは別に「ハッカ油」と呼ばれるものがあり、こちらは規定通りに正しく作られている場合は医薬品に分類されます。日本薬局方にはハッカ油について「ハッカの地上部を水蒸気蒸留して得た油を冷却し、固形分を除去した精油である。メントール30.0%以上を含む」と規定があります。この固形分というのは「薄荷脳(はっかのう)」と呼ばれる結晶化したメントール成分のことです。ハッカ精油にはメントールが約60%程度含まれますので、ハッカ油の香りの方が刺激はややおだやかですが、清涼感は十分です。強いメントール臭が苦手な方にはおすすめです。
![]() |
ハッカの産地は、北海道紋別郡滝上町(もんべつぐんたきのうえちょう)を中心とした一帯です。精油生産のための収穫は、花穂が立ち上がり3分の1ほど花をつけた頃に行います。その頃が葉の香りが最も香り高くなるので、花を含めた地上部全体を刈り取ります。収穫後、1カ月ほど乾燥させ、蒸留を行います。例年、収穫は北の大地に秋風が立ち始める8月下旬、蒸留は9月の下旬頃です。
![]() |
![]() |
![]() |
紋別郡の南東にある北見市には「北見ハッカ記念館」があり、日本のハッカ産業の歴史が保存されています。館の周囲には「まんよう」「ほくと」といった、北見で改良された優良品種が植えられ、生のハッカの香りも体感できます。興味のある方はぜひ、お訪ねください。
日本産のハッカはメントールの含有量が高く、国際市場の70%を占めた時代もありましたが、価格競争や合成のメントールに勝てず、今では国内の生産農家は10軒に満たない、大変貴重なものとなっています。
![]() |
主要成分であるメントールには、局所を刺激し、知覚をマヒさせる作用があります。鎮痛やかゆみ止めとしての効果が期待できます。ミントの香りで涼しく感じるのは、涼しさを感じる感覚神経を刺激するためです。実際は冷たくなくても「ひんやり」と感じさせてくれるのです。ですから、熱中症対策にはなりません。熱中症予防には血管を冷やすことが大切です。
また、胃粘膜を刺激し、消化管の運動を促します。私は、胃がもたれた時、乗り物酔いなど消化器系のトラブルのケアに、バッグの中にハッカ精油を常備しています。ハンカチに1滴落とし、その香りを嗅いで救われたことがしばしばあります。
気分を爽やかにする効果がありますから、暑い季節はもちろんのこと、涼しくなってからも通勤や出張、旅行などにマルチに活用できます。秋の観光シーズンにも、アロマスプレーにして持っておくと重宝することでしょう。
全国各地で大変な被害を出した強い台風や豪雨。被害に遭われた方々へ深くお見舞い申し上げます。
予測できない不安定な天候に落ち着かない日々ですが、皆さまお体に気をつけてお過ごしください。
日本園芸協会 指導部 佐々木薫
◎このメルマガの文章・写真の転載を禁じます。