ハーブ・アロマ メルマガ 「佐々木薫先生のエッセイ」
vol.78
ハーブでもてなすスリランカの結婚式と
ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ
スリランカの結婚式に招かれました。周囲では「スリランカってどこ?」という声もあるほどで、スリランカという国名は知っていても、場所までは知らないという人も一般には少なくないのに驚きました。地理的にはインドの南、インド洋に浮かぶしずく型の島で、「インド洋の真珠」と呼ばれます。ポルトガル、オランダ、イギリスの植民地となり、英国人が持ち込んだ紅茶の一大産地として有名になり、当時は「セイロン」と呼ばれていました。国民の7割は敬虔な仏教徒ですが、ヒンズー教、キリスト教、イスラム教信者もおり、いずれも宗教心が高く、お互いの宗教を認めあっているのもこの国の特徴です。
その特徴を表すように、今回の式はクリスチャンの花嫁にあわせ、まずカトリック教会で行われ、その後会場に移動し、スリランカの伝統的な儀式が行われました。以前の結婚式は数日間にわたる例もあったようですが、現在は簡略化され、伝統と現代流を各自が自由に取り入れているようです。共通するのは一連の儀式が終わると、歌と音楽で踊り明かし、宴は深夜まで続くところでしょうか。
伝統的な儀式は「ポルワ」と呼ばれ、4本の柱に囲まれた台の上で行われます。そこへきらびやかな民族衣装に身を包んだキャンディアンダンスのダンサーたちが、新郎新婦を誘導します。キャンディアンダンスは、キャンディ王朝時代(15~19世紀)に宮廷で踊られていた伝統舞踊で、ダンサーたちは寺院や華やかな儀式などにも招かれて、そこで披露されます。
ポルワにはいくつかのお決まりの儀式があり、新郎新婦それぞれの小指に白い糸を巻き付けて聖水を注いだり、願いを込めて「キンマの葉」を手渡しあったりします。こうした儀式はすべて司会の「アシタカ」と呼ばれる人に先導されます。
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キンマはコショウ科のハーブで、伝統的にはハート形の艶やかな葉が噛みタバコに使われてきました。アーユルヴェーダでは味覚を高め、口臭を除くという教えがあります。近年、発がん性などの疑いが報告されているのですが、新たな始まり、繁栄、親善、信仰、歓迎を象徴していて、仏教儀式や冠婚葬祭などで手渡したり、お金やお供えを包んだりするなどして利用されており、スリランカの生活には欠かせないハーブです。
式が終了すると豪華な会食が始まり、ステージにはバンド演奏がスタンバイします。ダンスは誰もが参加でき、スリランカの人は皆、踊るのが大好きとお見受けしました。スリランカの人々とつきあい始めてから30年弱になりますが、ここに来てはじめて、スリランカ人の心(気質)を知る思いでした。
自分の幸せを分かち合うことが「徳」につながるという考え方から、スリランカでは結婚式でもできる限り招待客をもてなし、食事も豪華にするのが基本だそうです。結婚後、家族みんなが「食」に困らないようにという願いも込められています。
会食の流れはおおよそこの通りですが、特にスタートを仕切る人や、着席を促すアナウンスなどもなく、最後に新郎新婦はデキシージャズ風の楽隊に送られて、オープンカーで会場のホテルを離れましたが、終わりのアナウンスもありませんでした。見送って会場に戻るとまだ踊っている人もいるなど、自由度が満載でした。この日集まったゲストは約400名でしたが、人とのつながりを大事にし、感謝しあうのが、スリランカの国民性であることをひしひしと感じました。
スリランカへ向かう途中のシンガポールでのトランジット(飛行機の乗り継ぎ)の際に少し時間があったので、一旦入国して町に出ました。最近の人気観光スポットに「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」があります。シンガポールには世界遺産にも登録された歴史ある植物園もありますが、こちらはそれとは対照的な、最新技術を駆使した植物園です。私も写真で見たことはありましたが、近未来的で、正直なところ、いささか理解に苦しむ存在でした。しかし、行ってみて考えはがらりと変わり、これからの植物園の象徴と感じました。
人の集まるハーバーフロントから徒歩5分という便利な立地で、まず足を運びやすいというのも人気のポイントのひとつでしょう。植物園というと中心部から少し離れた閑静な場所、というケースが多いと思いますが、アクセスのしやすさは重要です。短い時間でも気軽に訪れることができるからです。
世界各国から訪問者が訪れていて、老若男女が楽しめる、エンターテイメント性の高い、まるでディズニーランドのような植物園です。入口に並ぶ高さ25~50mの人工の木は、キャリアオイルの原料にもなるバオバブの木がモデルだそうです。夜には光と音のショーが行われます。
ガーデンで見るのは作りものでも、ここをきっかけに本物の植物に興味がわく人も多いかと思います。熱帯性の植栽が多い中、なんとキンモクセイを見つけました。やわらかい香りを放ち、この株がここで大きくなることを期待します。
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世界にはすばらしい植物園がたくさんあります。植物園についてもこのエッセイであらためて紹介させていただきたいと思っています。世界植物園紀行をお楽しみに。残暑が続いておりますが、皆さま体調に気をつけてお過ごしください。
続く各地の自然災害にあたり、被害に遭われた皆さま、またそのご家族、近親の方々に、心よりお見舞い申し上げます。
被災地の一日も早い復旧を、心よりお祈り申し上げます。
日本園芸協会 指導部 佐々木薫
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