ハーブ・アロマ メルマガ 「佐々木薫先生のエッセイ」
vol.76
世界バラ会議
今年もブルガリアンローズオイル(精油)の生産の季節がやって来ました。花の収穫祭である「バラ祭り」も、産地であるブルガリアのバラの谷の各地で開催されます。
今年は3月~4月がとても暑く(最高気温約33℃)、雨も少し降ったので、精油をとるダマスクローズの成長が例年より早かったため、収穫も2週間ほど早まったそうです。収穫時期の気温があまりに高いとダマスクローズの開花が早くなり、どこの畑も同じタイミングで花が咲くため、スピーディーに収穫を行わなければならないですし、花も一斉に集まるので、蒸留場の抽出能力を超過してしまい、最終的な精油抽出量も減ってしまうそうです。
5月に入ってからは雨が多く、気温も下がり、開花のスピードも緩やかに落ち着いたそうで、安心しました。ひとつずつ手で摘んだ花は蒸留所に運ばれ、すぐに蒸留されます。毎年この時期は、今年の精油の仕上がりがとても気になります。
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さて、2025年5月に、広島県福山市で「第20回世界バラ会議福山大会2025」が開催されます。世界バラ会議は、50年以上の歴史を持つ「世界バラ会連合」が3年に1度開催する、バラに関する国際会議です。
「世界バラ会連合」には現在世界40ヶ国が加盟し、会員数は約10万人で、愛好者まで含めると100万人に近いそうです。バラの人気は世界共通です。日本からは寛仁親王妃信子殿下が名誉総裁を務める「公益財団法人 日本ばら会」が、日本代表として連合に加盟しています。
バラの研究家、生産者、愛好家、芸術家などが世界各国から一堂に会し、世界のバラ愛好家の相互親善、情報の交換の場となります。福山大会では「ばら公園」などのバラ園の視察をはじめとする多彩なプログラムが予定されていて、開催がとても楽しみです。
なお、本大会の推進プロジェクトマネージャーには、岐阜県立国際園芸アカデミー客員教授(同アカデミー前学長)であり、日本園芸協会『ローズ・ガーデン講座』のテキストや協会の会報誌『プランツ&ガーデン』にご執筆いただいている上田善弘先生が就任されています。
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*世界バラ会議Webサイト https://wrc2025fukuyama.jp/
全国で「バラ」が市町村の花として制定されていたり、「バラの町」と称する地方公共団体は30近くあります。中でも福山市は戦後の復興の中で、「戦災で荒廃した街に潤いを与え、人々の心にやわらぎを取り戻そう」という住民の声が高まり、1956年に南公園(現在の「ばら公園」)にバラの苗を1000本植えたことから、「ばらのまち福山」の歴史が始まるそうです。
幸運にも5月末に福山市を訪問する機会があり、JR福山駅を降りると溢れるばかりのバラの植栽が続き、「ばらのまち福山」を堪能させていただきました。私と福山市との出会いは十数年前のブルガリア・カザンラク市の「バラ祭り」でした。ついに福山市を訪問することが出来た嬉しいご縁に、大変感謝しています。
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私たちはバラというとポプリやハーブティー、希少で芳醇なローズオットーの香りをイメージします。バラの魅力は色、香り、姿、そして深い歴史的背景、身と心を潤す存在です。2024年5月31日付朝日新聞のコラム「天声人語」で、『パンとバラ ローザとジェイクの物語』(キャサリン・パターソン 作/岡本浜江 訳)という本が紹介されていました。1912年アメリカで実際にあった移民労働者のストライキ「パンとバラのストライキ」を題材にしています。パンがほしい。でも、それだけじゃない。心や魂にも食べものがいる……「心や魂の食べ物」にバラが例えられています。心の栄養、その意味で、まさにバラやバラの香りは欠かせない存在だと思います。
日本園芸協会 指導部 佐々木薫
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