herb& aroma mail magazine

ハーブ・アロマ メルマガ 「佐々木薫先生のエッセイ」
vol.67

名月とキンモクセイ

 8月末の満月、スーパームーンはご覧になれましたか? 今年最大の満月とうたわれたように青みを帯びた煌々(こうこう)とした月でした。いよいよ今月末の満月は中秋の名月、お月見です。観月の習慣は日本や中国で古くからあり、天候が気になりますがよい月が眺められるように祈りたいと思います。

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 日本では伝統的に、月の模様は「ウサギが餅をついている」と見立てられていますが、中国では餅ではなく不老不死の仙薬を作っているとされています。動物もウサギではなくヒキガエルだそうです。さらに、「月には1本のキンモクセイの大木がある」という伝説があります。そのキンモクセイが咲き始めると月が満ち、満月の夜に月が明るく輝くのはキンモクセイが満開になったから、というものです。

▼ キンモクセイの花。花弁は4枚。中央にオシベがあり、メシベは退化している。

 キンモクセイは花から香料を採ったり、花そのものが香料として利用されますが、主要産地は中国の桂林(けいりん)です。桂林は水墨画のような景観で有名な観光都市ですが、この桂林にキンモクセイをもたらしたのは月に住む女神「嫦娥(じょうが)」で、当時やせた土地で農作物も育たず苦しむ桂林の町が、キンモクセイで潤ったそうです。とてもロマン溢れる伝説です。

▼ 桂林で売られるキンモクセイのお菓子。花弁が練りこまれている。

 キンモクセイは、春のジンチョウゲ、夏のクチナシに並ぶ日本の三大香木のひとつで、キンモクセイ、ギンモクセイ、ウスギモクセイ、シロモクセイがあり、日本には中国から伝わったとされます。しかし、もともと日本に自生する種としてウスギモクセイに近い種があったようです。キンモクセイとギンモクセイの学名は、日本の植物分類学の父、牧野富太郎氏によってつけられています。牧野氏は変種としましたが、現在は共に栽培品種、園芸品種とされています。

▼ 樹齢1200年の天然記念物指定・静岡県三嶋大社のキンモクセイ(ウスギモクセイ)。

 キンモクセイの花からは有機溶剤抽出法でアブソリュートが、二酸化炭素蒸留法で精油が抽出されます。共に採油率は1%以下で極めて貴重です。英名は学名から取ってオスマンサス(Osmanthus)と呼ばれ、高級香水のトップノートにも使われています。香調はフローラル・フルーティー、含まれる芳香成分に「γ(ガンマ)-デカラクトン」があり、この成分にアプリコット、ピーチ様の香りがあり、特徴成分になっています。キンモクセイの香りのフルーティーさを、今年開花したら意識してみてください。香りには食欲抑制効果があるという研究もあります。食欲の秋、ダイエットに役立つかもしれません。

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 日本では庭木として使われますが、中国では吉祥の花、立身出世の花として愛でられています。ご自宅の庭に花が咲くようでしたら、落下する前に花を集め、アルコールに漬けてお酒にしたり、乾かしてお茶にして楽しめます。キンモクセイの魅力をあらためてひもときながら、今年のお月見を楽しんでみてはいかがでしょうか。

▼ 竹竿で花を振り落として収穫する。

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日本園芸協会 指導部 佐々木薫



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佐々木 薫(ささきかおる)
プロフィール:
公益社団法人日本アロマ環境協会認定アロマテラピープロフェッショナル。 NHKをはじめテレビ、ラジオの出演多数。 日本園芸協会の通信教育講座「ハーブコーディネーター養成講座」テキスト執筆者。

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日本園芸協会 学習サービス課 aroma@gardening.or.jp




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