herb& aroma mail magazine

ハーブ・アロマ メルマガ 「佐々木薫先生のエッセイ」
vol.62

サフラン物語

 最も高価なスパイスと言えば、サフラン(Crocus sativus)。スペイン料理のパエリャやプロヴァンス地方のブイヤベース等々、各国の名物料理に欠かせない食材です。
 このサフランが日本でも生産されているというニュースを聞き、今回、スポットを当ててみました。現在、主要産地はイランですが、日本でも明治時代に生産が始まり、明治36年に大分県竹田市に伝わり、現在は竹田市の特産物にもなっています。高価だけに偽造品も多い中、品質の高さ、信頼性で、日本産は欧米のシェフ達の注目の的のようです。

.:*゚..:。:.   .:*゚:.。:.   .:*゚:.。:.

 サフランはアヤメ科の多年草で、開花は9月下旬から10月頃、その赤いめしべを摘んで、スパイスとして使います。早春に花をつけるクロッカスは近縁ですが、観賞用の園芸品種です。イヌサフランは花がとてもよく似ていますが、アルカロイドを含む毒草です。

▼ サフランの花。赤いめしべがスパイスになる。

 食材として知られるサフランですが、ギリシャ神話やホメロスの叙事詩、旧約聖書にも登場する歴史のある植物です。原産は古代ギリシャとされ、遺跡から発掘されたフレスコ画に、女性がサフランを摘む様子が描かれていると言います。また、香水や医薬品、化粧品として使われていたこともわかるそうです。
 サフランと言えば、その色や風味を料理に活かすというイメージですが、薬草でもあることに驚きます。明治19年、初版日本薬局方に『洎芙蘭』で収載され、現在の日本薬局方にも登録され、冷え症や血色不良などに用いられる医薬品として活躍しています。漢方薬としては、鎮静、鎮痛、通経などの作用があるとされ、主に更年期障害、月経困難などの改善を期待して婦人薬などに配合されることが多いようです。

▼ 中世の養生訓『健康全書』に
掲載されたサフランの収穫。
当時、サフランが薬草で
あったことがわかる。

.:*゚..:。:.   .:*゚:.。:.   .:*゚:.。:.

 ギリシャでは野生種が活用されましたが、フェニキア人によってペルシャ(現・イラン)に持ち込まれ、栽培が始まっています。料理の材料や薬として用いられるのみならず、庭園の植栽にも使われたようです。ペルシャ帝国に遠征したマケドニアのアレクサンダー大王もサフランを好み、料理や薬湯として活用したと伝えられます。

 土っぽい香りのピクロクロシン、干し草のような香りのサフラナール、マツのような香りのピネン、ユーカリに共通するシネオールなどの芳香成分を含み、キャラウエイ、パプリカ、ブラックペッパー、コリアンダー、ジンジャー、シナモン、バニラ、ナツメグなど多くのスパイスとの相性がよく、香りを引き立て合います。野菜、米、魚介類、羊肉、牛乳などの食材と相性がよく、前述の料理以外にもクスクスやサフランライスなどに欠かせないスパイスです。
 イランを旅した時は、毎食サフランライスがテーブルに並び、パンなどにも使われていました。サフランのパンは「ルッセカット」の名で、幸運をもたらすスウエーデンのクリスマスの定番のようです。

▼ イランのサフランクッキー
▼ サフランライス。イランでは
サフランが頻繁に使われている。

 高価なスパイスではありますが、歴史は長く、世界中で楽しまれているサフラン。とても親しみがわいてきます。

.:*゚..:。:.   .:*゚:.。:.   .:*゚:.。:.


日本園芸協会 指導部 佐々木薫



◎このメルマガの文章・写真の転載を禁じます。

佐々木 薫(ささきかおる)
プロフィール:
公益社団法人日本アロマ環境協会認定アロマテラピープロフェッショナル。 NHKをはじめテレビ、ラジオの出演多数。 日本園芸協会の通信教育講座「ハーブコーディネーター養成講座」テキスト執筆者。

.:*゚..:。:.  .:*゚:.。:.

日本園芸協会 学習サービス課 aroma@gardening.or.jp




Back Number
バックナンバーはこちら