ハーブ・アロマ メルマガ 「佐々木薫先生のエッセイ」
vol.61
雨上がりの春の朝の香り、ベルガモット
甘さと苦さ、爽やかさをあわせ持つ香り、ベルガモット。アロマテラピーでもフレグランス(香水)の世界でも人気の精油で、紅茶のアールグレイティーの香りづけとしてもおなじみです。
最近は国内でも生産が試みられているようですが、少し前までは、その果実を目にする機会は、植物園でもほとんどありませんでした。本当にベルガモットは存在するのでしょうか? そんな疑問すら浮かびます。その謎を解くためにも、イタリアはカラブリア州、レッジョ・カラブリアの町を訪ねたのは、2010年1月のことです。
収穫は例年11月から翌年の2月頃まで。気候による多少の変動がありますが、比較的長期間です。ベルガモットの生産の中心は、イタリア半島先端のごく限られた地域です。アルカリ性の土壌、適度な雨、冬は10℃を下回らず、夏は32℃前後という気候が、ベルガモットにはとても適しているようでした。
訪ねた1月上旬は、ちょうど収穫の最盛期です。摘みごろの果実をひとつずつ手で採っていきますが、中々の重労働で、摘み手はすべて男性です。周囲ではちょうどアーモンドの花が咲き出し、まさにイタリアの早春といった風情です。この時期は比較的雨が多く、その雨が大地を潤し、果実を大きくするといいます。
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ベルガモットの香り成分は果実の表皮に含まれます。昔はひとつずつ手で、果実から果肉を取り去り、残った皮をスポンジに押しつけて精油を採りました。その後機械化され、いくつかの方法も開発され、現在は表皮をすりおろし、圧搾する方法で搾油されています。この方法は熱を加えないため、生の香りをそのまま残すことができます。搾油工場を訪ねると、ベルガモットのフレッシュな香りが作業場いっぱいにあふれ、なんとも幸福な気分でした。
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ベルガモットの精油はアロマテラピーや香水だけでなく、食品香料、特にリキュールなどにも使われます。現地ではこのベルガモットを使ったスイーツ専門店まであります。キャンディーやママレード、ケーキなどがあり、一番おいしかったのがシャーベットです。このシャーベットを食べるだけの目的でも、もう一度この町を訪ねたいと思うほどでした。
その他、薄くて丈夫、香りのよい皮を使った小物入れやブローチなどの細工物も工芸品として売られています。この町の人々がベルガモットを単に産業として見るだけでなく、愛着を持っていることが伝わってきました。
しかし、果皮や香料は使われても、果肉や果汁はほとんど利用されないようで、市場でも果実を目にすることはありません。強いて言えば畑を持っている人たちだけの特権として、収穫の時期、果肉をサラダなどで楽しむそうです。私も食べてみましたが、グレープフルーツとレモンの中間のような爽やかさで、さっぱりとしたおいしさです。
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ベルガモットは他の柑橘系の精油に比べると、リナロールや酢酸リナリルといった鎮静効果のある成分を豊富に含みます。そのため、不安を和らげ、緊張をほぐすなどの効果も期待できます。また、香りは他の精油との相性もよく、ブレンドのバランスをとる役割をします。そのため、多くの香水、特にオー・デ・コロンには欠かせない存在です。
レッジョ・カラブリアは「南イタリアの至宝」と呼ばれる観光地だそうです。シチリア島を対岸に望み、遺跡や歴史的建造物が残ります。春になると思い出す、もう一度訪れたい産地のひとつです。
<おすすめレシピ> ベルガモット・リフレッシュルームコロン |
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・ベルガモット精油 | 3滴 |
・グレープフルーツ精油 | 2滴 |
・ローズマリー精油 | 2滴 |
・ラベンダー精油 | 3滴 |
・無水エタノール | 5ml |
・精製水 | 45ml |
スプレー容器にいれ、リフレッシュしたいとき、周囲にスプレーします。
日本園芸協会 指導部 佐々木薫
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