herb& aroma mail magazine

ハーブ・アロマ メルマガ 「佐々木薫先生のエッセイ」
vol.53

麻(あさ)とCBD

 暑い夏は、風通りがよく涼感のある、麻素材を手にすることも多いのではないかと思います。今私たちが「アサ」と呼んでいるものには、ヘンプ、亜麻(フラックス)、苧麻(ラミー)、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、ケナフなど多数あります。中でももともと日本に自生し、活用されて来た麻が「ヘンプ」です。ヘンプは別名「大麻」、成長が速く、非常に大きく成長するからその名がついたと言われます。

▼ ヘンプ(大麻)

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 日本でヘンプがいかに親しまれてきたかは、神社のしめ縄や相撲の化粧まわしなど神事に関係する場面や、またその果実が七味唐辛子など、伝統的な食品に使われているところからもわかります。さらには、千葉の沖ノ島遺跡からは約1万年前のアサの果実が検出されています。食料として、繊維(縄)としての活用は、縄文時代から始まっていたことが想定され、最も古い栽培植物とされています。古代の人たちにとっては、最も重要な生活資源のひとつであり、新しい土地へ移動する際は、アサの種も一緒に運ばれ、人と共にその分布も広がって来たのではないでしょうか。

 ヘンプ(大麻)は、現在の日本ではネガティブなイメージが持たれています。しかし、戦前までは衣料、紙、プラスチック、漁網の原材料となる繊維、食料素材として栽培されていました。戦後しばらくの間までは、ぜんそく、鎮痛、鎮静剤として日本薬局方にも収載され、処方されていました。

 ヘンプの薬理作用は、古代文明の時代より認知され、中国の「神農本草経」、インドの「アタルヴァ・ヴェーダ」にも記載されています。ヘンプに含有される薬理成分の中でも特に着目されるのがTHC(テトラヒドロカンナビノール)とCBD(カンナビジオール)です。THCは精神活性作用、鎮痛、食欲増進の効果があり、マリファナの主要成分になります。一方CBDは、THCのような精神作用は認められていなく、抗不安、抗てんかん、抗ガン、抗菌、抗炎症、骨の成長促進などの作用が挙げられています。近年は「医療大麻」として、あらためてヘンプの有効性をWHOが推奨する動きも出てきました。

 日本ではTHCの輸入や所持は医療目的であっても現在は禁止されています。しかし、茎や樹脂から抽出されたCBDは規制対象外であり(※)、古来認知されてきた有用性を活かし、化粧品や健康食品として流通しています。今後は医療大麻の検討も進む傾向にあります。ただし、CBD製品の販売、使用について、海外規格製品の使用は違法になるケースがありますのでご注意ください(※)。

※厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部のWebサイトには“CBD(カンナビジオール)を含有する製品については、大麻取締法上の「大麻」に該当しませんが、当該製品を輸入する前に、麻薬取締部においてその該否を確認しております”と記載があります。
参考URL:https://www.ncd.mhlw.go.jp/cbd.html

▼ CBDを添加したティンクチャー
▼ リラックスやリフレッシュのためにドリンクに添加して飲用します

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 今、ヘンプが注目される理由は、その薬理効果のみならず、環境問題への貢献です。生育条件を選ばず、日本でもやせた土地の土壌改良に使われてきました。水もあまり必要としないため、砂漠のような土地でも育ちます。それらは持続可能な社会を目指す、SDGs、具体的には目標15「陸の豊かさも守ろう」に大きく貢献できる可能性を秘め、14の海の豊かさを守ることにも間接的に関与できます。完成されたCBD製品の価値だけでなく、ヘンプという植物が持つ背景に視野を広げると、サスティナブルな魅力、消費者としての私たちが出来ることは何かに気づかされます。CBDを通し考えたことは、私にとってこの夏の成果です。

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日本園芸協会 指導部 佐々木薫



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佐々木 薫(ささきかおる)
プロフィール:
公益社団法人日本アロマ環境協会認定アロマテラピープロフェッショナル。 NHKをはじめテレビ、ラジオの出演多数。 日本園芸協会の通信教育講座「ハーブコーディネーター養成講座」テキスト執筆者。

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日本園芸協会 学習サービス課 aroma@gardening.or.jp




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