herb& aroma mail magazine

ハーブ・アロマ メルマガ 「佐々木薫先生のエッセイ」
vol.44

嗅覚トレーニングのすすめ

 秋を彩る香りと言えば、キンモクセイでしょうか。今年は、咲き始めるのも例年よりかなり早かったように思います。ミカン色の小さな花も愛らしく、香りもよいので、庭木として植えるお宅も多く、開花の時期はあちらこちらで甘い香りが漂います。この香りに遠い記憶を重ねる方も多いのではないでしょうか。関東地方では珍しくない木ですが、寒い地域では植物園などでしか見かけないという声も聞きます。縦長の日本列島、地域による違いを知るのも面白いことです。

▼ キンモクセイの花

 身近な植物で季節の移ろいを感じられるのは、とても恵まれたことかと思います。四季があり、緑豊かな日本ならではのことであり、日本人の感性が育まれる要因かもしれません。そこに香りがあれば尚さらです。今年、私は花の姿より先に、匂いでキンモクセイを感じました。「あれ、この香りはもしや?」、秋の報せに「日本人に生まれてよかった」と感じました。

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 COVID-19の症状が嗅覚に影響することもあり、巷でも嗅覚への関心が高まっているようです。感染の早期発見のために、毎朝コーヒーの香りをチェックすることを日課にしているという方もいます。マスク生活もあり、平常より、香りは感じにくくなり、意識も薄れているかもしれません。マスクを外す自宅などでの生活では、意識して香りを嗅いだ方がよいかもしれません。

 嗅覚は本能的な香りと言われ、五感の中でも特殊な感覚です。視覚や聴覚が知性が優先されるのに対し、嗅覚は本能が優先され、好き嫌い、心地よいか否、がはっきり分かれるとされます。鼻から入った信号は、脳の奥深くに送られ、脳の中でも生命維持のための大事な機能をつかさどっている分野に届きます。香りでリラックスすることが、自律神経系や内分泌系、免疫系、全身のバランスを整えることにつながるとされる由縁です。

 COVID-19対策だけでなく、嗅覚を整えることはとても重要です。日常の生活の中で、無理なく出来ることを習慣づけるのがよいと思います。実際、嗅覚障害に耳鼻咽喉科のクリニックなどで採用されている嗅覚トレーニングがあります。処方はいくつかあるかもしれませんが、花の香り、スパイスの香りなど、4種の香りを朝晩10秒程度、12週間嗅ぐというものです。

▼ ユーカリ、クローブ、レモン、ラベンダーの精油
4種類の香りをコットンまたはストーンなどにつけ、
遮光瓶に入れたトレーニングセット

 大事なことはクンクンと意識して嗅ぐこと。これはコーヒーの香り、これはラベンダーの香りというように、脳に記憶させるように集中して嗅ぎます。香りの種類はこだわらなくともよいようです。慣れた精油を使うときにも、意識して香りを嗅いでみると、新たな気づきや発見もあるかもしれません。日頃からハーブやアロマを取り入れた生活は、思いがけない贈り物(セレンディピティ)を届けてくれそうです。

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日本園芸協会 指導部 佐々木薫



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佐々木 薫(ささきかおる)
プロフィール:
公益社団法人日本アロマ環境協会認定アロマテラピープロフェッショナル。 NHKをはじめテレビ、ラジオの出演多数。 日本園芸協会の通信教育講座「ハーブコーディネーター養成講座」テキスト執筆者。

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日本園芸協会 学習サービス課 aroma@gardening.or.jp




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