ハーブ・アロマ メルマガ 「佐々木薫先生のエッセイ」
vol.42
北国の春、シラカバ樹液採取
雪解けが始まり、北国にようやく春が訪れる頃の楽しみのひとつが、シラカバの樹液採取です。この時期、厳しい冬を乗り越えたシラカバの木々は、芽吹くために必要な栄養分を、大地から一気に吸い上げ、「命の水」として枝先までに蓄えます。幹に傷をつけるとその水は樹液としてポタポタと滴り、昔から世界各地の民族がその恩恵にあずかってきました。例えばアイヌの人たちは野営の際の炊事の水に使ったといいますし、北欧やロシアでは「森の看護婦」と呼ばれ、樹液を健康のために飲む習慣があるようです。樹液は1年中採取できるものではなく、雪が解け始める時期のわずか2週間から1か月ほど、北海道では例年4月の上旬から中旬のみ、貴重な貴重な大地の恵みです。後、木が本格的に芽吹きの準備に入る頃、樹液の溢出はピタリと止まり、栄養分は自らの生長のために使われます。
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樹液の約99%は水ですが、わずか0.3~0.5%の微量成分を含有します。カルシウムや亜鉛、カリウムなどのミネラル、多糖類、各種アミノ酸、ビタミンCやタンニン、サポニン、フラボノイド、ポリフェノールなど、健康と美容に効果的な成分です。薬理作用の科学的な解明はまだですが、民間療法では、便秘、利尿、健胃、痛風、リウマチ、関節炎、むくみ、湿疹、などの改善に効果があるとされています。樹液そのものが飲料として製品化されていますが、化粧品原料としても活用されています。見た目も味も水とほとんど変わりませんが、ちょっととろんとした感じがして、飲んだ後ほんのり甘みが残ります。産地では樹液を沸かして淹れたコーヒーを出す店があったり、焼酎やウイスキーの水割りに使ったり、研究者の先生にお尋ねすると、「味噌汁が一番」「ご飯を炊くのもいい」とのことでした。私も試したことがありますが、うっすら色がつき、滋味のありそうなご飯が炊けました。
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1本の木で1シーズン、100~200ℓの樹液が採取できます。「庭にシラカバの木が1本あれば、十分利用できますよ」と先生は仰います。欲しいですね、庭に1本。最近の研究では、この樹液に活性酸素を除去する作用があるという報告もあり、今後の研究が大いに期待されます。北海道では、美深町、旭川市などが産地で、毎年、収穫の時期に白樺祭りが開かれ、市民も樹液採取を間近に見ることが出来ます。予定されていた白樺樹液祭りは、今年はやむなく中止となりました。しかし、シラカバの木はちょうど今頃、たっぷりと樹液を蓄えていることでしょう。
変わらぬ自然の営みに思いを馳せると、少し、救われる気がします。
来年の再会が待ち遠しいです。
日本園芸協会 指導部 佐々木薫
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