<猫井登のお菓子紀行>
vol.34
イギリス・ロンドン(6)
ロンドン中心部
この「お菓子紀行」では、私:猫井登と、同じくお菓子研究家である妻:Junkoが実際にお菓子の研究のために訪れた国々での体験や旅の様子を交えながら、さまざまなお菓子を紹介していきます。
今回は、イギリスのロンドンの様子です。
猫:今日は、ちょっと面白いお菓子屋さんに行ってみよう。
J:どこかしら?
地下鉄を乗り継ぎ、ロンドンの南西部へ。
猫:さあ、着いたよ! ここが目的のお店「ニューエンズ(Newens)」だよ。
▼ニューエンズ |
J:なんのお店なの?
猫:「メイズ・オブ・オナー(Maids of Honour)」発祥の店で、創業は1850年! なんと170年以上も前。
J:メイズ・オブ・オナーって、イングランド国教会を作ったヘンリー8世の大好物だったとかいうお菓子よね?
猫:そうそう。ヘンリー8世は、最初の妻のキャサリンとのあいだに世継ぎが生まれなくて、離婚しようとしたところ、カトリックでは離婚を禁じているため、ローマ教皇から許可が出なかった。
で、ローマ教会から離脱して、プロテスタントのイングランド国教会を作って、離婚して、キャサリンの侍女だったアン・ブーリンと結婚した。まあ、その後も、離婚や結婚を繰り返すわけだけれど…。
J:で、お菓子は、いつ登場するのかな?
猫:まだ、ヘンリーとアンの仲が良かった頃、アンが侍女たち(メイズ・オブ・オナーと呼ばれた)とお菓子を食べているところにヘンリーもやって来て、一緒にお菓子を食べた。ヘンリーは、そのお菓子をものすごく気に入って、侍女が作ったお菓子ということで、お菓子を「メイズ・オブ・オナー」と名付けた。まあ、そこまではいいのだけれど、そのお菓子を独占すべく、レシピを鉄の箱に入れてカギをかけ、それを作ったメイドさんを幽閉した。
J:なんか異常ね!? でも門外不出のレシピのお菓子がどうして売られているの?
猫:まあ、どこかでレシピが流出したんだろうね。1750年頃にはリッチモンドと言う場所で売られるようになったらしい。その店は繁盛していたらしいけれど、今はなくなってしまった。その店で見習いとして修業していたのが、このお店の「ニューエンズ」の創始者であるロバート・ニューエンズ氏だったというわけ。
J:で、どんなお菓子なわけ?
▼メイズ・オブ・オナー |
猫:直径8センチほどの小型のパイで、サクサクのパフペイストリー(パイ生地)にカードチーズ(凝乳:乳に、酸や酵素などを作用させてできる凝固物のこと。フレッシュチーズの一種)ベースのフ ィリングを詰めたものだと言われている。今でもレシピは門外不出だから詳しいことは分からないけれど。
J:チーズタルトのようでもあり、エッグタルトに似ているようでもあり…。でも、美味しいわ!
ロンドン都心部に戻ってきました…。
J:今日は、昼がお菓子だけだったから、お腹が空いたわ! ガッツリと肉とか食べたいわ!
猫:じゃあ、イギリス発祥といわれる「ローストビーフ」の名店に乗り込みますか。
J:やったあ!
猫:ローストビーフの有名店、「シンプソン・イン・ザ・ストラーダ」! 1828年開業の老舗だよ。
J:五つ星ホテルのサヴォイのグループでお隣にあるのね。重厚なお店ね。
猫:まあ、とりあえず前菜にサーモンでももらいますかね。
▼「シンプソン・イン・ザ・ストラーダ」のローストビーフとヨークシャー・プディング |
J:ひゃ~、なんか、横で大きなお肉を切ってくれているわ! すごいすごい!
ところで、このローストビーフの横についている、シュークリームの皮みたいなの何?
猫:ヨークシャー・プディングだな。材料は、まさにシュークリームとほぼ一緒で、小麦粉、卵、水、塩少々といったところで、これらを混ぜた生地をオーブンで焼いたものだね。元々は、肉を焼いたときに出る肉汁(ドリップ)を吸わせるためのもので、ドリッピング・プディングとも呼ばれたね。まあ、貧しい家庭では肉より、こちらでお腹を膨らませることが多かったとも言われているよ。
つづく