Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のお菓子紀行>

vol.30
イギリス・ロンドン(2)
ロンドン中心部

この「お菓子紀行」では、私:猫井登と、同じくお菓子研究家である妻:Junkoが実際にお菓子の研究のために訪れた国々での体験や旅の様子を交えながら、さまざまなお菓子を紹介していきます。
今回は、イギリスのロンドンの様子です。

<アフタヌーンティー教室の先生のお宅にて>

先生:さあ、もう準備が整っているから、お部屋の方にどうぞ!


▼アフタヌーンティーの用意がされていた

J:うわあ、アフタヌーンティーが完璧にセットされていますね!


▼先生が紅茶を入れる準備をしている

先生:さあ、こちらに来て。これから紅茶を入れます。
昔から、ミルクティーを作るとき、カップに、「紅茶」を先に入れるか、「ミルク」を先に入れるか、争いがあります。

  1. ミルクを先に入れる立場を「MIF(Milk in First )」といいます。
    理由としては、
    • ミルクを先に注ぐことで紅茶とよく混ざり、香りが引き立つ。
    • 熱い紅茶を後に注ぐことでカップが割れるのを防ぐ。
    • カップに茶渋が付くのを避けられる。

  2. 紅茶を先に入れる立場を「MIA(Milk in after )」といいます。
    理由としては、
    • ミルクティーにしたい人だけが後からミルクを注げばよい。
    • ミルクの量を調整しやすい。

   そんなこと、どちらでもいいと日本の方は考えるかも知れませんが、2003年の6月24日に英国の王立化学協会が出した正式プレリリース、『How to make a Perfect Cup of Tea』(一杯の完璧な紅茶を淹れる方法)によると、「ミルクが先」というのが結論のようです。
理由としては、その方が美味しいから、ということです。

J:どちらが美味しいかは、個人の好みによると思いますし、あとから、ミルクティーにしたい人だけが入れればよい、という方が合理的な気がしますが。

先生:先ほど挙げた理由以外にも、歴史的な理由もあって、昔は陶磁器の技術がまだ未熟で、カップの中の傷が目立ったので、それを隠すためにミルクを先に入れたとも言われています。今はそんな必要ないし、まずは紅茶そのものの香りや味わいを感じてほしいから、私も紅茶が先がよいと思います。

猫:なるほど。
たしか、スコーンのジャムとクロテッドクリームについても、後先の問題がありますね。


▼アフタヌーンティーでは定番のお茶菓子スコーン

先生:そのとおり。横に割ったスコーンに塗るのは、どちらの方が、先が良いかという問題よ。

  1. デヴォン州では、   クロテッドクリーム→ジャム、
    • ジャムの水分でスコーンが湿らない。
    • クロテッドクリームをたくさん塗りやすい。

  2. コーンウォール州では、ジャム→クロテッドクリーム、
    • クロテッドクリームのクリームを先に味わえる。
    • エリザベス女王もこのやり方。

J:どちらが良いかは、これも個人の好みだと思うけれど、塗る順番によって味わいが異なってくる のは事実ね。


▼デヴォン州式に先にクロテッドクリームを塗り
その上にジャムを塗ったスコーン

猫:僕は、クロテッドクリームが先という方が塗りやすいかなあ…。

つづく

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

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