<猫井登のお菓子紀行>
vol.28
オーストリア・ウィーン(8)
ウィーン中心部
この「お菓子紀行」では、私:猫井登と、同じくお菓子研究家である妻:Junkoが実際にお菓子の研究のために訪れた国々での体験や旅の様子を交えながら、さまざまなお菓子を紹介していきます。
今回は、オーストリアのウィーンの様子です。
J:さあ、いよいよウィーンも最後ね。今日は、ぶらぶらカフェでも覗いて、お土産を買おうかしら。
猫:じゃあ、お菓子屋さんのショーウィンドーを見ながら散歩でもしようか。
J:あら、さっそく変わったケーキがあるわ、上のデコレーションが風車みたいになっている。
▼デコレーションが風車のようなケーキ 「ドボシュトルタ」 |
猫:あれは、「ドボシュトルタ」だね。
J:あまり聞かないケーキね? 有名なケーキなの?
猫:ウィーン菓子というよりは、お隣のハンガリーのブダペストのお菓子だね。
ハンガリーは、オーストリアの皇帝がハンガリーの国王を兼ねる同君連合の二重帝国時代があったから、つながりが深いんだよね。
ドボシュトルテは、1887年にドボシュさんが考案したケーキで、バター多めのスポンジ生地にチョコレートのバタークリームを7層くらい挟んだケーキで、一番上の生地にカラメルを塗って固めて、それを三角にカットして、斜めに飾り付けるのが特徴的だね。
オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフや皇后エリザベートの好物だったともいわれるよ。
J:へぇ~。こっちはシュトゥルーデルね。リンゴだけでなく、いろいろな種類のものがあるのね。
▼いろいろな種類のシュトゥルーデル |
猫:リンゴだけでなく、ショーケースにあるようなサクランボなどをつかったものもあるよ。Weichselは、マハレブチェリーのことかな。そのほか野菜を入れて巻いたお惣菜タイプのものもあるよ。
シュトゥルーデルというのは、渦巻きという意味だけれど、実習でもつくった生地はフィロ生地と呼ばれていて、アラブ菓子のバクラバなんかと共通で、もともとはトルコからオーストリアに伝わったとも言われているんだよ。
▼一見リングケーキ風のクグロフ |
J:あちらは、リングケーキみたいだけれど、クグロフね。
猫:フランスの方でクグロフっていうとブリオッシュ生地のような、いわゆるパン生地で作られるけど、ウィーンではコーヒーに添えるお菓子の一種として作られていて、バニラ生地とチョコレートの生地のマーブル状のパウンドケーキみたいなものが多く見られるね。
J:ところ変われば、同じお菓子でも違うのね。
▼ロールケーキ「ルーラード」 |
J:フランスではあまり見ないけれど、ウィーンではちらほらロールケーキ「ルーラード」を見かけ るわね?
猫:ロールケーキというのは、スイス発祥のお菓子だって言われることが多いんだけどね。日本でも某パンメーカーが「スイスロール」っていう名でロールケーキを売っているし、イギリスでもそう呼ばれている。だけど…
J:だけど?
猫:ロールケーキって、言ってみればスポンジを巻いたお菓子だろう。スポンジの発祥はスペインなのに、なんで、いきなりスイス? って思うわけ。
J:確かにね…
猫:で、調べてみると、スペインのカタルーニャには「ジプシーの腕」って呼ばれるロールケーキがある。そこに隣接するフランスのランドック地方では「ヴィーナスの腕」と呼び名は違うけど、同じようなロールケーキがある。
J:スペインとスイスは、どうつながるの?
猫:問題はそこだ。ハプスブルグ家はもともとスイスあたりが発祥で、一時スペインまでも支配していた。
J:つまり、スペインで生まれたロールケーキがハプスブルグ家を通じて広がったと?
猫:僕はそう考えている。ロールケーキが多く見られるのは、オーストリア、ハンガリー、ドイツ、 スイスといった地域で、まさしくハプスブルグ家ゆかりの地ばかりなんだよ。
J:なんでスイスが発祥ってなってしまったのかしら?
猫:イギリスのヴィクトリア女王がスイスを旅行した折に気に入って持ち帰ったことから、イギリスで「スイスロール」って呼ばれるようになり、それが広まったのではないかな。
J:今後の研究課題ね。
オーストリア・ウィーン編 おわり
次回からは「イギリス」の旅の様子をご紹介していきます。お楽しみに!