<猫井登のお菓子紀行>
vol.26
オーストリア・ウィーン(6)
ウィーン中心部
この「お菓子紀行」では、私:猫井登と、同じくお菓子研究家である妻:Junkoが実際にお菓子の研究のために訪れた国々での体験や旅の様子を交えながら、さまざまなお菓子を紹介していきます。
今回は、オーストリアのウィーンの様子です。
J:研修5日目。今日の実習は「カーディナルシュニッテン」と「バウムクーヘン」ね。
カーディナルシュニッテンというのは、日本ではあまり見かけないケーキね。
猫:ウィーンを代表する銘菓の1つで、日本でもウィーン菓子を売っているお店にいけば、見ることが出来るけどね。日本はフランス菓子屋さんは多いけど、ウィーン菓子屋さんは少ないからなあ。
J:どんなお菓子なの?
猫:カーディナルというのは「枢機卿(すうききょう)=カトリックの高い地位の聖職者のこと」の意味で、シュニッテというのは「切る=四角いケーキのこと。シュニッテンは複数形」を意味するから、直訳すると「枢機卿の四角いケーキ」ということだね。
構造としては、ふんわりとしたスポンジ生地とメレンゲ生地が交互に連なった生地に、コーヒー風味のクリームを挟むものが多いけれど、枢機卿は、赤い帽子とマントを身に着けていることから、本来は赤スグリのジャムを挟むものだね。
スポンジ生地の黄色とメレンゲの白の組合せは、カトリックの総本山のバチカン市国の旗を象徴しているとも言われているよ。
J:なるほどね~
先生:まずは、卵白と砂糖を泡立て、メレンゲを作ります。
一方で、全卵、卵黄、砂糖、小麦粉でスポンジ生地を作ります。
両方を絞り袋に入れて交互に絞ったら、粉糖を振り掛けて焼きます。
J:二種類の生地を組み合わせるなんて、なかなか手が込んだ生地ね。
▼メレンゲとスポンジ生地を交互に絞る |
猫:泡が潰れていくから、2人で、共同で作らないと難しいね。
先生:生地が焼き上がったら、赤スグリのジャムをはさみ、仕上げに粉糖を振ったら完成です。
▼焼きあがったら赤スグリの ジャムをはさんで粉糖を振る |
J:さすが、本場! オリジナルレシピだわね。
なんで、コーヒークリームを挟むようになったのかしら? ジャムの方が手間がかからないような気がするけれど。
猫:作ってすぐ食べる場合はいいのだけれど、ジャムの場合は生地に浸み込んで、変色したりして、見栄えが悪くなるから、クリームに変えたと言われているけれど。ウィーンはカフェが多くて、みんなコーヒー味が好きだから、コーヒー風味のクリームに変えたのかもね。
先生:次にバウムクーヘンを作ります。本来は専用の機械で廻る芯棒に生地を掛けながら焼いていきますが、今日は家庭でも焼けるように平たく作るやり方を紹介します。
マジパンをベースにコアントローや卵黄を加えて、バター、砂糖を合わせて、メレンゲ、小麦粉を合わせていきます。
出来上がった生地を深さのある天板に薄く流して焼成し、火が入ったら、また生地をかけていきます。これを何度も繰り返すと、層のあるバウムクーヘンとなります。
▼生地を薄く流して焼成することを繰り返して 平たく作ったバームクーヘン生地 |
J:ふつう、バウムクーヘンと言うとパウンド生地をベースにしたものが多いけれど、これはマジパンをベースにしたリッチな配合ね。
猫:バウムクーヘンも色々なタイプがあるからね。ドイツ系のものはマジパンを使ったどっしりとしたレシピが多いね。
J:そうなんだ?
先生:生地が出来上がったら、チョコレートをかけていきます。
▼バウムクーヘン生地にチョコレートをかける |
J:バウムクーヘンにチョコレートを掛けるのって、珍しくない?
猫:いやいや、こちらでは結構一般的だよ。むしろ、チョコレートがかかっていないものを探す方が珍しいかもしれない。以前、ドイツに行ったときもチョコ掛けしてあったでしょ。
J:日本だとあまり見ないわよね?
猫:日本人は、わりと、あっさりとしたものを好むからね。
それに、前も言ったけれど、バウムクーヘンそのものがあまり一般的なお菓子ではない。地方の銘菓という感じで、日本みたいにコンビニでも売っているような一般的なお菓子ではないんだよね。
J:そういうのって、現地に来てみないとわからないわね。
つづく