Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のお菓子紀行>

vol.25
オーストリア・ウィーン(5)
ウィーン中心部

この「お菓子紀行」では、私:猫井登と、同じくお菓子研究家である妻:Junkoが実際にお菓子の研究のために訪れた国々での体験や旅の様子を交えながら、さまざまなお菓子を紹介していきます。
今回は、オーストリアのウィーンの様子です。

J:研修4日目。今日はいよいよ「ザッハートルテ」の実習ね!

猫:まあ、ウィーン菓子の中では一番有名なお菓子だね。

先生:今日は、ザッハートルテを作ります。
まず生地は、バター、粉糖、卵黄を混ぜて、そこに溶かしたチョコレートを加えます。
卵白に砂糖を加えてしっかりと泡立て、メレンゲを作ります。
最初の生地に、メレンゲを合わせて、小麦粉も合わせて混ぜて、型に流していきます。

J:小麦粉少なめのビスキュイ(別立てスポンジ)という感じね。チョコレートの油分で気泡が結構潰れるから、しっかりと泡立てるかと思いきや、7分立てくらいね。

猫:生地に空気をたくさん入れると、ふんわりとはするけれど、その分生地の味わいが希薄になっていくから、外のチョコレートコーティングとのバランスをとって、目の詰まっている感じの生地を目指しているのだろうね。


▼型に入れて焼いた生地

先生:生地が出来上がったら、生地を横2枚に切って、真ん中と外側全体にアンズジャムを塗っていきます。


▼生地にアンズジャムを塗る

J:たしか、ホテルザッハーとデメルでは、作り方が違って、デメルはアンズジャムを挟まないのよね。ここはザッハ―流ね。

猫:そのとおりだね。まあ、好みだけれどね。

先生:上掛けチョコレートを作っていきます。
鍋に砂糖と水を入れて、煮立ったらチョコレートを加えます。112℃まで煮詰めて、大理石の台の上で温度調整をします。とろみが出てきたら、一気にスポンジの上に掛けていきます。

J:流したら、けっこうすぐに固まるわね。


▼上掛けチョコレートの温度調整をする

猫:そう。だからあんまりパレットで何度もならさない方がいいね。
側面はならさずに、網をトントンとして垂らす感じがいいね。

J:なんか傾いているわ。綺麗に作るのは、なかなか難しいわね。


▼完成したザッハートルテ

<実習後>

J:せっかくなので、ホテルザッハーにザッハートルテを食べに行きたいなあ。

猫:よし、行ってみよう。

J:うわぁ、豪華な内装ね! あったわ、ザッハートルテ! さすがにキレイね。


▼本家ホテルザッハーのザッハートルテ

猫:土産用に木箱に入れたものは外のコーティングが厚い感じがしたけれど、これは均一に側面までなめらかに作られているね。

J:そもそも、「ザッハートルテ」って、どういう由来のお菓子だっけ?

猫:まあ、有名なお菓子だけに色々な話があるけれど… 1814年のウィーン会議の際に、オーストリアの政治家メッテルニヒが何か新しいお菓子を作ってほしいと注文し、フランツ・ザッハーが作ったと言われているね。
問題はそのあとで、息子のエドゥアルド・ザッハ―がホテルを作るわけなんだけど、孫の代になると、世界恐慌もあって、ホテルが財政難に陥る。そのときに、支援したのがデメルだった。
デメルでもザッハートルテの販売を認めるというのが支援の条件だったわけだけれど、その後、関係がこじれて、ザッハ―家がデメルに対して、ザッハートルテの名称の使用を禁じる裁判を起こす。なんと裁判は7年にも及んだといわれ、「甘い7年戦争」なんて言われている。

J:結局、裁判はどうなったの?

猫:まあ、一応はザッハ―側の勝訴となって、オリジナルを名乗るのはザッハ―だけど、デメルも「デメルのザッハートルテ」として販売してもよいということになった。

J:実質的には痛み分けっていう感じね。

猫:今では、ザッハ―トルテというのは、一つのケーキの種類として、デメル以外のケーキ屋さんでも販売しているし、日本でも売っているくらい有名なケーキになったね。

つづく

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

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