<猫井登のお菓子紀行>
vol.24
オーストリア・ウィーン(4)
ウィーン中心部
この「お菓子紀行」では、私:猫井登と、同じくお菓子研究家である妻:Junkoが実際にお菓子の研究のために訪れた国々での体験や旅の様子を交えながら、さまざまなお菓子を紹介していきます。
今回は、オーストリアのウィーンの様子です。
J:研修3日目ね。今日はいよいよ「シュトレン」ね。最近、日本でもクリスマスに見かけるわ。
猫:そうだね。日本ではなぜか「シュトーレン」と表記されることが多いけれど「シュトレン」が正しい発音。
以前訪れたドイツのドレスデンあたりが発祥の地と言われているよね。
J:14世紀ころに出来たお菓子だっけ?
猫:そうだね。1329年の記録に残っているというから、日本だと鎌倉時代ころに登場したお菓子ということになる。もっとも最初のシュトレンは、クリスマス前の節制期間のパンとされて、燕麦と水、菜種油で作られた粗末なパンだった。
いろいろな経緯があって、今のようなバターたっぷりのお菓子となるのは、15世紀に入ってからだよ。
ドイツのドレスデンでは、バターやドライフルーツの量について基準が決められているけれど、ウィーンではどんなものを作っているのか楽しみだね。
先生:今日は、ウィーンで伝統的に多く見られるシュトレンを作ります。
まずは、ミルクを30℃くらいに温めて、その半量にイーストを入れて、小麦粉を適量入れた生地を温かいところに置いておきます。
柔らかくしたバターに粉糖、砂糖、レモンの皮、シナモン、卵黄、ラム酒を加えて残りの小麦粉と混ぜ合わせ、先のイースト生地と合わせて滑らかになるまで練り上げます。
生地を寝かせている間にフィリングを作ります。
マジパン、クルミ粉、ラム酒、砕いたくるみを合わせて筒状にまとめます。
生地をコッペパン状にまとめたら、中央から両端に土手が出来るように麺棒で伸ばし、筒状のフィリングを包むように2つ折りにして、生地をぴっちりと合わせるようにします。
▼筒状のフィリングを包むように 生地を2つ折りにする |
▼生地の端をぴっちりと合わせる |
J:ドイツのシュトレンは、レーズンとかドライフルーツをたっぷりと入れたけど、今日のはクルミのフィリングが主体で面白いわね。
猫:ウィーンのシュトレンでもドライフルーツをたっぷりと入れるものはあるけれどね。
J:最初に温めた牛乳にイーストを入れるのはなぜ?
猫:イースト菌が活動するのに適した温度が30度くらいなんだよ。高くしすぎると死んでしまうから注意が必要だね。
J:今日は、割と余裕があるわね。ランチに期待しちゃうわ。
先生:今から今日のランチを皆さんの前で作っていきます!
「カイザーシュマーレン」です。
小麦粉、卵黄、牛乳、塩を混ぜていきます。卵白に砂糖を入れて泡立ててメレンゲを作ります。
これを先ほどの生地と合わせていき、レーズンも加えます。フライパンで焼く場合はバターを溶かして焼いていきますが、今日はオーブンで焼くので溶かしバターを生地に入れます。
オーブンに入れて、焼き固まってきたら、崩すようにします。
▼オーブンで焼き固まったものを崩す |
J:なんか、ホットケーキを崩したようなお菓子ね。
猫:皇帝フランツ・ヨーゼフ一世が好んだお菓子として有名だよ。まあ、有名なお菓子なのでさまざまな逸話があるけれど、一番面白いのは、皇帝が従者と狩りに出ていて腹が減ったので、農家に立ち寄り、なにか作ってくれと頼んだ。農夫はあり合わせのものでホットケーキのようなものを作ろうとしたが、相手が皇帝だということで緊張のあまり手が震えて、グチャグチャになってしまった。これがこのお菓子の始まりっていうお話。
J:皇帝がいきなりやってきて、急にお菓子を作ったら、そりゃ緊張するわよね(笑)。
猫:一般的に、シュマーレンというのは、「オムレツ料理のようなもの」を指すとされているけれど、「裂いたもの」とか、「冗談」なんて意味もあるとされていて、グチャグチャの料理を出されたときに、皇帝(=カイザー)が「これは何かの冗談か?」といったことから、この名前になったとも言われているね。
▼カイザーシュマーレン |
J:面白い! さあ食べましょうよ。
つづく