<猫井登のお菓子紀行>
vol.23
オーストリア・ウィーン(3)
ウィーン中心部
この「お菓子紀行」では、私:猫井登と、同じくお菓子研究家である妻:Junkoが実際にお菓子の研究のために訪れた国々での体験や旅の様子を交えながら、さまざまなお菓子を紹介していきます。
今回は、オーストリアのウィーンの様子です。
J:工房での研修2回目の今日はクリスマス菓子を作るのよね?
猫:日本では、クリスマスのお菓子といえば、クリスマス「ケーキ」が定番だけど、ヨーロッパではクリスマス「クッキー」が定番なんだよね。だいたいクリスマスの1か月前くらいから、ちょうど11月の下旬頃からお母さんが色々な種類のクッキーを焼いて缶にためていくんだ。
J:これだけ色々な種類のケーキがあるのに、なぜクッキーなのかしら?
猫:一言で言えば「種なしパン」の流れがあるからだね。
J:種なしパン?
猫:パンというのは、膨らむように発酵させて作るだろう。今でこそ発酵のメカニズムが解明されているけれど、昔はなぜパンが膨らむか分かっていなかった。
ひょっとしたら悪魔の仕業かも知れないなんて考えられてね。そんなものを神様にお供えするわけにいかない。だから神様にお供えするのは伝統的に発酵させないパン、つまりは発酵種(はっこうだね)が入っていないいわゆる「種なしパン」=膨らまないパンだった。
ケーキに使うスポンジは、発酵によって膨らませているわけではないけれど、膨らむという点ではパン生地の延長線上にあるわけで、お供え物にはふさわしくないと考えられたんじゃないかな。まあ、大昔の話だけどね。パンの一種であるシュトレンも、クリスマス菓子だし。
J:なるほどね。で、今日はどんなクリスマスクッキーを作るのかしら?
猫:次の4種類だね
ヴァニレ・キプフェル(バニラの三日月形クッキー)
ヌス・ブリューテン(ナッツの花形クッキー)
オランジェン・プレッツヒェン(オレンジのクッキー)
フザーレン・クラプフェン(騎士風だんご)
▼ヴァニレ・キプフェル |
▼ヌス・ブリューテン |
▼オランジェン・プレッツヒェン |
▼フザーレン・クラプフェン |
先生:まずは、ヴァニレ・キプフェル。こちらはバターを冷たい状態でサイコロ状にカットして、小麦粉、バニラシュガー、ナッツパウダーと合わせて寝かせて、三日月型に成型します。
ヌス・ブリューテンも同様に冷たいバターを使い、こちらは小麦粉、粉糖、レモンの皮、卵黄を合わせて作ります。こちらは、クルミの粉とビスケット粉、ミルクなどで作ったフィリングをはさみ、最後にラズベリージャムを塗ります。
オランジェン・プレッツヒェンは、マジパンに粉糖、卵白、などを加えたねっちりとした生地にアーモンドスライスを貼り付け、マジパンと乾燥オレンジ、コアントローで作ったフィリングを挟みます。
フザーレン・クラプフェンは、ヌス・ブリューテンと製法は似ていますが、ヘーゼルナッツ粉を使った生地を団子状にまとめて、最後に中央を押さえてくぼみを作り、カラント(赤スグリ)のジャムを注ぎます。
J:冷たいバターを使って生地を作るのは、フランス菓子のサブレ生地と同じね。
猫:そうだね。サクサク感が出るよね。ヘーゼルナッツやクルミなどナッツ類の粉をいろいろと使い分けるのが特徴的だね。生地にどっしりとした旨味がつくよね。
J:今日のお昼はなにかしら?
猫:おいおい。お菓子じゃなくて、昼ご飯に頭がいっているの?
J:だって楽しみじゃない?
猫:そりゃまそうだけど。今日は4つ種類もクッキーを作っているから、あんまりゆっくりと食べている時間ないんじゃないかな。
▼ランチのソーセージ |
▼ランチのパン「カイザー・ゼンメル」 |
J:あらら、今日はシンプルにソーセージにパンね。変わった形のパンね。
猫:今日は忙しいからね。パンは「カイザー・ゼンメル」だね。オーストリアの代表的なパンだよ。
カイザーは「皇帝」の意味で、パンの上面にある模様が、皇帝がかぶっていた王冠のように見えることから、この名がついたといわれるよ。
つづく