<猫井登のお菓子紀行>
vol.19
フランス・アルザス地方(5)
ストラスブール「ミュゼ・アルザシアン」
この「お菓子紀行」では、私:猫井登と、同じくお菓子研究家である妻:Junkoが実際にお菓子の研究のために訪れた国々での体験や旅の様子を交えながら、さまざまなお菓子を紹介していきます。
今回は、アルザスのストラスブールの様子です。
猫:今日は、博物館に行ってみよう。「ミュゼ・アルザシアン」といって、18~19世紀のアルザスの生活ぶりが分かる場所だよ。
昔のお菓子の型や道具も展示されているらしいから、勉強になると思うよ。
J:賛成! 行ってみましょう。
<博物館にて>
▼昔のクグロフ型(上)とオブラート型(右下) |
J:昔のクグロフ型ね。横に置いてあるものは何かしら?
猫:これは、たぶんオブラートの型だな。
J:オブラート?? 飴とか包んである、薄い膜みたいなもののこと?
猫:ドイツでは、オブラートというと、「聖体パン」のことなんだよ。
パンはキリストの体で、ワインはキリストの血をあらわすって言うだろう。カトリック教会では「聖体の秘跡」と言って、パンとワインがイエスの体と血に変わること(聖体変化)と、それを信徒が分け合うこと(聖体拝領)がミサの中心であるとされているんだよ。
このときに使われるのが「聖体パン」で、修道院が、教会のために発酵させない穀物と水だけのパンをはさみ型で薄く丸く焼いたせんべいみたいなものなんだよ。ホスチアとも呼ばれるね。
正確には司教が聖別して聖変化させたものが「聖体パン」になるわけで、それまでは単なるパンだから、修道院だけでは製造が間に合わなかったとき、それを専門業者に製造を依頼するようになった。それがお菓子になっていったのが、ワッフルというわけだ。
J:ふうん。じゃあ、ワッフル型のご先祖様ってわけね。
こちらの人型のものは何?
▼パンデピスの型 |
猫:これは「パンデピス」の型って、書いてあるね。
J:パンデピスって、あのスパイス味のパウンドケーキみたいなもののこと?
猫:一般的には、その通りなんだけど、アルザスのものはもっと固くって、クッキーに近い。この形状からすると生地に押し付けて、模様をつけるんだろうね。
J:なんか、トイレのブラシ立てみたいなものがあるんだけど??
▼昔のバター製造機 |
猫:ははは。たしかにトイレのブラシ立てにそっくりだね。でもこれは、昔のバター製造機だよ。
J:これでどうやってバターを作るの?
猫:棒の先に、×形のものが付いていてね、筒のなかに中にクリームを入れて、棒を上下させてバシャバシャすると、離水がおこり、バターができるわけ。
家で生クリームが余ったら、ペットボトルに入れて上下にバシャバシャ振ったら、原理的には同じように離水がおこって、バターが出来るよ。
J:そうなんだ。今度やってみようっと。
猫:けっこう生臭いというか、獣臭い場合もあるから注意してね(笑)。
<博物館を出て広場を散歩>
J:あそこで茂っているのって、ルバーブ(※)じゃない!?
▼ルバーブ |
猫:ルバーブの旬は、4月~6月だからね。シベリアが原産の植物だから寒さに強いんだよね。
ヨーロッパでは、そのまま食べたりするみたいだけれど、酸味が強いから日本では甘く煮て、ジャムにする場合が多いよね。茎の部分は食用にするけど、葉には毒性のある物質も含まれているから注意が必要だね。
※お菓子づくり講座ではテキスト3第4章にて「ルバーブのシュトゥルーデル」の作り方をご紹介。
つづく