<猫井登のお菓子紀行>
vol.15
フランス・アルザス地方(1)
ストラスブール
この「お菓子紀行」では、私:猫井登と、同じくお菓子研究家である妻:Junkoが実際にお菓子の研究のために訪れた国々での体験や旅の様子を交えながら、さまざまなお菓子を紹介していきます。
今回は、アルザスのストラスブールの様子です。
成田からフランス・パリに飛行機で飛び、シャルルドゴール空港で国内線に乗り換え、アルザス地方の中心、ストラスブールにやって来ました。
猫:さあ、パリでの乗り継ぎが大変だったけれど、ようやくストラスブールに着いたね。さっそくホテルを出て、街をぶらぶらしてみよう。
▼ストラスブールの町の様子 |
J:今までは、クリスマスマーケットとか冬に旅行することが多かったから、春とか夏とかに来るのは、また違った感じがするわ。お花も咲いていて、キレイ!
アルザスって、どういうところなの?
猫:アルザス地方は、フランスの北東部にあって、ドイツと国境を接する場所にあるんだ。それで、戦争のたびにフランスとドイツがこの地域の領土権争いを繰り広げて、フランスの一部になったり、ドイツの一部になったりした。住民はそのたびごとに、話す言語も変えさせられた。
昔、小学校か中学校の授業で「最後の授業」って、アルフォンス・ドーデの小説の一節を習わなかった?
J:題名は聞いたことがあるような気がするけれど…。
猫:「私がここで、フランス語の授業をするのは、これが最後です。普仏戦争でフランスが負けたため、アルザスはプロイセン領になり、ドイツ語しか教えてはいけないことになりました」と先生が最後の授業で言うんだ。学校で習ったときは、歴史的な背景を知らなかったから、意味がよくわからなかったけれどね。今はわかるなあ。
J:この地方に住んでいる人は大変な目に合ったのね。
猫:だからアルザスの人々は、
「我々は、フランス人でもドイツ人でもない!アルザス人だ!」
って、気概をもっていて、文化も独特なんだよ。
J:お菓子も独自のものがあるわけね。
猫:そのとおり! だから遠路はるばるやって来たわけ。
▼アルザス地方独特の家「コロンバージュ」 |
J:広場に出たわよ! うわぁ~ 独特の建物ね! 絵本の世界に入ったみたいだわ。
猫:木組みの家だね。この地域では「コロンバージュ」って呼ばれているよ。
J:なんか、頭でっかちというか、1Fよりも上の方が大きいような気がするんだけど、気のせいかしら?
猫:これは、昔、地上階の土地の面積を基準に税金がかけられたから、1Fは小さく作って、2F以降を出っ張らせたんだよ。
J:なるほど、ちゃんと理由があるのね。 あっ、さっそく、お菓子を発見したわよ!
▼ブリオッシュ生地のクグロフ |
猫:おっ、クグロフだね! もともとは、オーストリアのお菓子で、マリー・アントワネットがフランスに嫁いだときに、フランスに広がったとも言われるけれど、オーストリアのウィーンなどで見られるものはパウンド生地のもので、このようなパン生地の一種であるブリオッシュ生地のものは、今日ではアルザス地方が中心となっているね。
J:なぜ、アルザス地方が中心となったの?
猫:まあ、真偽のほどはわからないけれど、面白い伝説がある。
昔、アルザスのリボーヴィルという村にクーゲルという陶器職人がいた。ある晩3人の見知らぬ者たちが訪ねてきて、泊めてほしいと頼まれ、親切にもてなした。実はこの3人というのは、キリストの誕生を祝いに向かう東方三博士で、宿泊のお礼にと珍しいお菓子の作り方を教えてくれた。これがクグロフの元になったというお話。
J:で、お菓子の名が、クーゲル→クグロフになって、アルザスに広がったというわけね!
まだまだ、面白いお菓子がありそうね。
つづく