<猫井登のお菓子紀行>
vol.13
ドイツ(4)
シュトゥットガルトのクリスマスマーケット
この「お菓子紀行」では、私:猫井登と、同じくお菓子研究家である妻:Junkoが実際にお菓子の研究のために訪れた国々での体験や旅の様子を交えながら、さまざまなお菓子を紹介していきます。
今回訪れているのはドイツのシュトゥットガルトです。
J:ここのクリスマスマーケットは、ずいぶん規模が大きいわね~。
猫:シュトゥットガルトは、ベンツやポルシェなどの大企業が本社を置く工業都市で、ここのクリスマスマーケットは世界最大規模と言われているからね。このクリスマスマーケットは、屋台小屋の屋根の装飾が豪華なことでも有名だよ。
▼シュトゥットガルトのクリスマスマーケットは屋台小屋の屋根の装飾が豪華。 |
J:たしかに! あらっ、変わった飾りが売っているわ! クリスマスリースにロウソクが4本も立てられている。
▼クリスマス・クランツ |
猫:クリスマス・クランツだね! アドヴェントの話は前にしたと思うけど、クリスマスが近づくにつれて、毎週日曜日に1本ずつ本数を増やして火をつけるんだ。キリストの降臨が近づくと、キリストの光で世の中が明るさを増すことを象徴しているとも言われているね。それぞれのロウソクにも意味があって、1本目が希望、2本目が平和、3本目が喜び、4本目が愛を表すんだ。
J:ドアにかけたりするのではなくて、置いて楽しむのね。
どこからか、カレーみたいな香りがするわ!
猫:さっき、通った人がカリーブルストを持っていたみたいだね。
J:カリーブルスト!? それはなに?
猫:百聞は一見に如かずで、売っている屋台に行って、食べてみようか。
▼カリーブルスト |
J:焼いたソーセージにケチャップとカレーパウダーをかけるのね。
猫:そうそう。小さなパンも付いてくるから、ちょっとした軽食になるね。ドイツで愛されているファストフードだな。
J:昔からあるものなの?
猫:第二次世界大戦後のドイツで普及したといわれているね。屋台でソーセージを売っていた人が始めて、ベルリンの労働者の間で人気が出て広がったそうだよ。
J:お腹が満ち足りたあとは、デザートね。なにか変わったものとかは売ってないかしら?
猫:デザートになるかは微妙だけど、面白いパンならさっき売っていたよ。さっき通った屋台に行ってみよう。
▼ヴェックマン |
J:人型をしたパンなのね。ヴェックマン(Weckmann)と書いてあるけど、どういう意味かしら?
猫:ヴェッケン(Wecken)が、小麦で作った白いパンのことで、それに「人」や「男性」を意味する単語「Mann(マン)」が合体してできた呼び名だね。まあ「人型パン」とか「人形パン」ってところかな。
J:なんで、人型をしているの?
猫:一言でいうと「聖ニコラウスに助けられた子供」を表している、ということになるかな。
J:???
猫:逸話があってね。ある日のこと、森に遊びに行った3人の子供が道に迷ってしまう。夜になってようやく森から脱出して歩いていると灯りがついた店があった。子供たちが事情を話すと店主は優しい人で夕食を食べさせてくれて、疲れていた子供たちは眠りについた。
ところが、この店主、実はとんでもない奴で、寝た子供たちを切り刻んでソーセージ用の肉樽に放り込んだ。翌日、聖ニコラウスという司教が店先にやってきて肉樽を見せろと迫ると店主は悪事が露見したと悟り一目散に逃げてしまった。ニコラウスが肉樽の前でパチンと指をならすと子供たちは無事生き返ったという話。
聖ニコラウスは、子供の守護聖人だとされ、サンタクロースのモデルとなった人物だよ。12月6日が聖ニコラウスの日とされ、本来はその日のお菓子だけど、今ではクリスマス期間中、ずっと見られるね。
J:せっかく、聖ニコラウスに助けてもらった子供のかたちをしたパンを食べちゃうのは、なんか複雑な気分なんですけど(笑)。
つづく