<猫井登のお菓子紀行>
vol.08
ベルギー(8)
ブルージュの郷土料理とお菓子
この「お菓子紀行」では、私:猫井登と、同じくお菓子研究家である妻:Junkoが実際にお菓子の研究のために訪れた国々での体験や旅の様子を交えながら、さまざまなお菓子を紹介していきます。
今回訪れているのはベルギーです。
<ブルージュに到着>
J:今日はブルージュね。どんな街かしら?
猫:興味深い歴史のある街だね。ここは海から10Km以上離れているけど、12世紀に大津波に襲われた。その爪痕として、街のあちこちに溝が残った。フランドル伯は、その溝を水路にして、北海から船が通れるようにした。このおかげで交易が盛んになり、13世紀には貿易・金融の一大拠点となった。
当時の王様や教会が社会を支配する時代下にあって、市民自らが時を告げる鐘楼を街の中心部に建て、市場の開始時刻を知らせたことから、資本主義社会の最初の拠点ともされるんだ。
J:資本主義の街として発展したわりには、今も中世の面影が強くなっているわね?
猫:15世紀頃になると、運河に土砂が堆積して大型の船が入って来れなくなって、だんだん衰退していってしまったんだよ。19世紀になって運河が再生されると、美しい水の都として知られるようになって、今では「ベルギーのベネチア」とも呼ばれているね。
J:なるほど、それで今は白鳥がのんびりと運河を泳いでいるわけね。
猫:さあ、鐘楼が見えてきたよ。
J:ここが街の中心なのね。綺麗な街並みね! レース屋さんもたくさん。
レストランも結構あるわね。せっかくだから、ここでランチしない?
<レストランにて>
猫:せっかくだから、北海の小エビを使った「トマト・オ・クルヴェット」を前菜にして、あと「ムール貝の白ワイン蒸し」を頼もうか。
J:「トマト・オ・クルヴェット」って、どんなお料理?
▼トマト・オ・クルヴェット |
猫:トマトを丸ごとくり抜いて、そこに北海でとれるクルヴェットクリーズという小エビとゆで卵を 詰め込んで、マヨネーズソースをかけたサラダだよ。
J:結構、ボリュームあるわね。これだけでお腹一杯になりそう。
猫:まだまだ、頑張らないと、次のもすごいと思うよ。
▼ムール貝の白ワイン蒸し |
▼フリット(フライドポテト) |
J:何これ? ムール貝が、鍋いっぱいにてんこ盛りね! ポテトの量もすごいんだけど!
猫:フライドポテトって、「フレンチ・フライド・ポテト」と呼ばれるから、フランスのものかと思いきや、実はベルギー生まれなんだよね。こちらでは「フリット」と呼んで、ビーンチュというジャガイモから作られる。街中では円錐型を逆さにしたコーン型の紙包みに入れて、上からマヨネーズをかけたものがよく売られているよ。
J:なんで、ベルギー生まれなのに、フレンチ・フライドなんて呼ばれるようになったのかしら?
猫:戦争のとき、ベルギーにやっていた米兵がフランス語を話す人々が、揚げたポテトを食べているのを見て、フランスの食べ物だと思ったらしいよ。
J:そう言えば、ベルギー語ってないわよね?
猫:オランダ寄りの北部はオランダ語、フランス寄りの南部はフランス語だね。
<食事のあとで>
J:ブルージュはレース屋さんが多いわね。
猫:16世紀頃からの伝統産業だね。ポビンレースと言って、組紐のようにポビンを交差させながら編むのが特徴だね。
J:ブルージュには、特有の郷土菓子はないの?
▼ブルージュのレース |
猫:ちゃんとあるよ! その名も「ブルージュのレース」。さっきお店で見た繊細なレースのように、薄くて、穴があいているお菓子だね。材料は小麦粉、バター、黒砂糖、白砂糖、粗く砕いたアーモンド。極薄の生地だからあっという間に焼き上がる。サクサクで、バターとアーモンド香ばしさがたまらないね。薄いから湿気ないようにしないとね。
つづく