Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のお菓子紀行>

vol.07
ベルギー(7)
アントワープの郷土菓子

この「お菓子紀行」では、私:猫井登と、同じくお菓子研究家である妻:Junkoが実際にお菓子の研究のために訪れた国々での体験や旅の様子を交えながら、さまざまなお菓子を紹介していきます。
今回訪れているのはベルギーです。

猫:ブリュッセルで、ワッフル、チョコレート、ケーキと一通り見たので、今日は足をのばして、地 方に行ってみようか?

J:いいわね! どこに行くの?

猫:まずは、アントワープに行ってみよう。

<アントワープにて>

猫:どこか行きたいところある?

J:それりゃ、アントワープと言えば、聖母大聖堂でしょう! アニメ『フランダースの犬』で、ネロと愛犬パトラッシュがルーベンスの絵画の前で横たわって昇天するシーンは、泣いたもの。

猫:では、早速行ってみますか。


▼聖母大聖堂

J:やっぱり、立派ね!

猫:1351年着工、1521年完成だから、なんと建築に170年も費やしている。フランドル地方最大のゴシック建築と言われ、123メートルの高さがある。


▼ルーベンス作『キリストの降架』
(猫井登撮影)

J:これが、ネロが最後に見た、ルーベンスの『キリストの降架』ね!
なんか、ネロが死んじゃうところを思い出して、涙が出そう…

猫:まあ、気分を壊してなんだけど、『フランダースの犬』の物語って、地元じゃあんまり有名じゃないんだよね…

J:なんで?? だって自分たちの街の物語でしょ?

猫:もともと物語を書いたのはイギリスの作家で、イギリスで出版されたため、ベルギーではあまり知られていないということもあるし、物語を知っているベルギー人も、自分たちベルギー人は物語のような非道な仕打ちをする人間ではないとして、批判的らしいよ。ハッピーエンドを好む、アメリカでは、ネロの父親が名乗り出てきて、ネロは死なない結末になっているらしいし。

J:なんか、せっかく来たのに、感動がなくなるわね~。

<大聖堂のあとで>

J:せっかく、地方に来たのだからアントワープの郷土菓子を探しに行きましょうよ!

猫:アントワープの郷土菓子を理解するためには、その前に見ておかないといけないものがあるんだ。
それを先に見にいこう。


▼アントワープ市庁舎とシルヴィウス・ブラボーの像

J:こちらは、市庁舎ね。『フランダースの犬』では、たしかここで絵画コンクールが開かれたのよね。

猫:今も、現役の市役所だよ。でも、見たいのは市庁舎ではなくて、その前にある像なんだよ。
なんの像だかわかる?

J:さあ?? でも、なんか投げようとしているわね。

猫:伝説によれば、スヘルデ川の川岸の城には巨人が住んでいて、城付近を通り過ぎる船に通行料を払わせ、応じないと、その手を切り落として川へ放り捨てていた。ある日、ローマの戦士シルヴィウス・ブラボーが巨人の息の根を止め、その手を切り落として川へ投げ捨てた。
アントワープ(=アントウェルペン)という地名は、オランダ語で「手(ant)を投げる(werpen)」という言葉がなまってアントウェルペンとなったと言われているんだ。この話を踏まえて、街のお菓子屋さんを覗いてみようか。

<街のお菓子屋さんにて>

J:うわぁ~、ホントに手のかたちをしたお菓子がたくさんあるのね!
こちらは、ちょっとわかりにくいけど、手のかたちのビスケットね。


▼手の形のビスケット

猫:そうだね。
今では、巨人の手というよりも、握手を求めるというような意味合いで、友情とか友愛のあらわす形として、お菓子に使われている感じがするけどね。

つづく

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

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