<猫井登のお菓子紀行>
vol.04
ベルギー(4)
絵画からお菓子の歴史を知る
この「お菓子紀行」では、私:猫井登と、同じくお菓子研究家である妻:Junkoが実際にお菓子の研究のために訪れた国々での体験や旅の様子を交えながら、さまざまなお菓子を紹介していきます。
今回訪れているのはベルギーです。
<ベルギー王立美術館>
J:お菓子の研究なのに、美術館??
猫:まあ、まあ。こちらの美術館は4つの部分からなっているのだけれどメインの「古典美術館」に行くよ。こちらには15世紀から18世紀の絵画が収められているんだ。
さあ、こちらが、ブリューゲル作『謝肉祭と四旬節の喧嘩』だよ。
▼ブリューゲル作『謝肉祭と四旬節の喧嘩』 (猫井登撮影) |
J:当時の生活が描かれているのね。いつ頃の作品なのかしら?
猫:正確に言うと、ピーテル・ブリューゲル『謝肉祭と四旬節の喧嘩』は、ウィーン美術史美術館に現在所蔵されていて、この古典美術館に展示されているものは、長男ピーテル・ブリューゲル2世(子)の模写作品だね。父のピーテル・ブリューゲルは、1559年頃から大型の油彩画を本格的に描くようになり、これは、まさに、1559年にベルギーで製作されたものだと言われているね。
J:父親も息子も同じ名前で、わかりにくいわね。
猫:注目してほしいのは、真ん中、やや左の黒い服を着たお婆さん。何をしているかわかる?。
J:う~ん。うずくまって、なにか、取っ手のついた黒いものを…。横には鍋みたいなものがあるわね。わかった!! ワッフルを焼いているのね!
▼お婆さんがワッフルを焼いている |
猫:大正解! 左側の台の上には、焼き上がったワッフルが置いてあるよ。
J:ホント! さっきレストランで食べたブリュッセル風ワッフルと同じかたちをしているわね!
猫:そうそう。だから、さっき食べたようなワッフルは、少なくとも16世紀の中頃には庶民の生活の中にあったということがわかる。撮影ができるカメラというものが、発明されたのは19世紀初頭だから、それまでは写真というものはないわけで、当時のお菓子の様子とかを知るには、絵画に描かれたものを見るのが一番わかりやすいんだ。
J:なるほど、それで美術館に来たわけね。 ところで、「謝肉祭」や「四旬節」って、なんだっけ?
猫:イエス・キリストが十字架に磔になったあと復活したとされているのは、知っているよね? それを祝うのが復活祭、英語でいうとイースターなんだけど、復活祭の前、40日間は食事などを節制して、イエス・キリストの受難に想いを馳せる時期とされていて、それが四旬節。四旬節に入ると、肉とかは食べられなくなるし、厳粛な生活を送らなければならないから、その前に肉やら乳製品とかを腹いっぱい食べて、どんちゃん騒ぎをしておこうというのが、謝肉祭だね。
J:せっかく、厳粛な気持ちで復活祭を迎えようと準備をするのに、その前はどんちゃん騒ぎ?
なんだか、主客転倒というか、矛盾しているというか…。
猫:まさにそのとおりで、謝肉祭と四旬節の矛盾とか、人間の愚かさを風刺したのがこの作品だね。
J:なるほど。そういう意図があったのね。
猫:さあ、せっかくここまで来たから、もう1枚お菓子が描かれた絵画を見に行こうか。
ヤーコブ・ヨルダーンス作の『王様が飲む』という絵画で、1640年の作品だね。
▼ヤーコブ・ヨルダーンス作『王様が飲む』 (猫井登撮影) |
J:これは、私にもわかるわ。1月6日の公現祭、エピファニーの様子を描いたものね。
猫:大正解! 聖書によれば、救世主が生まれたことを示す赤い星が空に出たのを見つけた3人の王または賢者が12日間かけてイエス・キリストが生まれたベツレヘムの馬小屋までやってきて、貢物を渡すという話があるね。12月25日に12を足すと1月6日で、イエス・キリストがこの世に現れたことを祝う祭りだね。お菓子的には「ガレット・デ・ロワ」を食べる日だね。
J:絵画の中に、丸いガレット・デ・ロワらしきお菓子が描かれているわね。パイ生地っぽいわ。
▼王様がガレット・デ・ロワらしき 丸いお菓子を持っている |
猫:ガレット・デ・ロワは、もともとブリオッシュのようなパン生地で作られたいたといわれるけど、この絵画を見ると確かにパイ生地っぽい。パイ生地は、クロード・ジュレ(1600~1682年)が考案したという説があるから、この絵画の描かれた1640年には、ガレット・デ・ロワは、パイ生地の、このようなものになっていたのだろうね。
J:絵画もこんな風に見ていくと面白いわね。
つづく