<猫井登のお菓子紀行>
vol.02
ベルギー(2)
プリンの祖先は、ソーセージだった!?
この「お菓子紀行」では、私:猫井登と、同じくお菓子研究家である妻:Junkoが実際にお菓子の研究のために訪れた国々での体験や旅の様子を交えながら、さまざまなお菓子を紹介していきます。
最初の目的地はベルギーです。
<夕刻、ベルギー・ブリュッセルのホテルに到着します>
猫:とりあえず、晩御飯を食べに行こうか?
J:なんか、ビストロ風のところがいいわね。
ベルギーって、フランス料理がリーズナブルに食べられるって、聞いたわ。
<ビストロに入ります>
猫:おっ、「ブーダン・ノワール」があるな、これにしよう!
J:何、それ??
猫:「ブーダン」はソーセージ、「ノワール」は黒。直訳すると「黒いソーセージ」。
豚の血と脂、臓物、玉ねぎなどにスパイスを効かせて腸詰にしたものだな。
J:豚の血? なんか気持ち悪いなあ。そんなの食べて大丈夫?
猫:古くからある料理で、栄養価も高く、ビストロでは定番だよ。
何より、「ブーダン」が発展して、やがてイギリスのプディングになっていくんだよ。
J:どういうこと??
猫:まず、ブーダン、いわゆる腸詰というものが生まれた背景から説明するか。牛や豚等を解体すると、肉のほか臓物や血も出てくるだろ。これらも貴重な食糧だが、やわらかい内臓や液状の血は扱いが難しい。そこで同じく解体したときに得られる腸に肉の小片などとともにそれらを詰めることを思いつき「腸詰=ソーセージ」が生まれたというわけだ。血入りのものは、色が黒くなるので「ブラック・プディング」と呼ばれた。
J:なるほど、食材を無駄にしないための知恵なのね。
猫:そのとおり。一方で、肉や臓物、穀物を牛乳や卵とともに詰めた「ホワイト・プディング」というものも作られるようになり、プディングは「何かを詰めたもの」という広い概念になっていく。
J:バリエーションが広がったのね。
猫:17世紀になると家庭では、腸に詰める代わりに「プディングクロス」と呼ばれる布にたっぷりの小麦粉をふるいかけ、材料を包み、茹でるという調理法が確立される。これによりプディングのバリエーションは更に広がり、牛乳、卵に穀物のほか、パンくず、ドライフルーツ、ナッツなどを加え、スパイスなどで味付けをするようになる。
J:今、見られるプディングに近づいてきたわね。
猫:イギリスのクリスマス菓子として名高い「クリスマスプディング」や「パンプディング」なども、この頃に生まれたとされる。19世紀頃になると、「プディングベイスン」と呼ばれる専用容器が登場し、クロスに包んで「茹でる」やり方から、容器に入れて「蒸す」やり方に変化していく。
J:中に入れる食材も、調理法も両方変化したわけね。
猫:でもって、「プディング」が日本に伝わったとき、日本人の耳には「プリン」と聞こえた。
J:…ということは、プリンの先祖は、ソーセージってわけ?? びっくり!!
似ても似つかないものが、祖先なのね!
猫:一応、歴史を辿っていくと、そういうことになるね。色んな説があるけどね。
▼プリンの先祖にあたる「ブーダン・ノワール」 |
J:しかし、これソーセージに見えないんですけど…。
猫:これは太く作ったものを、輪切りにして出しているね。このタイプは初めてだな。
J:私はせっかくベルギーに来たんだから、ワッフルとか食べたいな~。
猫:じゃあ、明日はまずワッフルを食べに行きますか。
J:やったあ!
つづく