Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のスイーツ面白事典>

vol.56
パネトーネ(2)

今年、大手百貨店がクリスマス菓子として大々的に(?)取り上げるかも知れないクリスマス菓子である「パネトーネ」ですが、一体どんなお菓子なのでしょうか?

1.パネトーネとは?

パネトーネとは、イタリア・ミラノの銘菓で、甘くて柔らかな食感が味わえる、風味豊かな発酵菓子(要は一種の菓子パン)です。パネトーネ種の酵母を用いてゆっくり発酵させたブリオッシュ生地の中に、レーズンや砂糖漬けのフルーツなど甘味があるドライフルーツをふんだんに混ぜ込み、ドーム型に焼き上げられます。


▼パネトーネ

▼パネトーネの断面


パネトーネ種というのは、生まれたての仔牛が初乳を飲んだあとの腸内から取り出した菌を小麦粉と混合したものを培養・発酵させて作る自然種(酵母)のことです。イタリア北部のコモ湖周辺でのみ採取、培養されており、酵母と乳酸菌が共存している大変珍しい複合酵母であるといわれています。

パネトーネ種の特徴は、水分・油分・糖分に対する耐性が強く、これらを多く含む柔らかい生地でも活発に働くことです。そのため、パネトーネ種で焼いたパンは保水性に優れており、乳酸菌の働きによって独特の風味のある柔らかい口当たりのパンに仕上がります。

また、パネトーネ種は発酵の際に天然の保存料を生み出すと言われており、防腐性・防菌性に優れています。そのため、焼きあがったパネトーネはその風味を損なわないまま約6か月の長期保存が可能なパンといわれ、11月下旬〜1月頃までクリスマスシーズンが続くヨーロッパにはうってつけのお菓子なのです。

2.パネトーネの起源は?

パネトーネは、15世紀のイタリアのミラノで作られ始めたといわれています。その原型と思われるものは古代ローマ時代に存在していたという説もあり、12月下旬に行われていた収穫祭に祭礼用として用いられていた大型のお菓子がパネトーネの原型ともいわれています。

これがのちにキリスト教の普及によって、古代ローマ時代の宗教的な農耕行事とキリストの降誕が結びついてクリスマスを祝う習慣となり、同時にパネトーネもイタリア全土で広く食べられるようになったといわれます。

3.パネトーネの発祥に関する由来話

パネトーネの発祥については、興味深い話がいくつかありますので、以下の3つの説をご紹介しましょう。
(1)大きなパン という説
(2)職人トニーが考案した という説
(3)ミラノの修道女が考案した という説
これらの説がありますが、今回は最初のひとつをご説明しましょう。

(1)大きなパン という説
パネ=パン、トーネ=大きな。パン種(パネット)に何度も小麦粉を練り込んで「大きなパン」に仕上げるから、このような名がついたという説です。

次回は、興味深い(2)の「職人トニー」の話を始めに、その他のパネトーネ発祥説をご紹介しましょう。

つづく

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

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