Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のスイーツ面白事典>

vol.53
フォンダンショコラ(3)

前回は、アメリカ版フォンダンショコラである「モルテンチョコレートケーキ」誕生の経緯として、 「ジャン-ジョルジュ・ヴォンゲリスティン」というフランス系アメリカ人シェフと、それにすぐさま反論した「ジャック・トレス」というフランス人ショコラティエの話をしました。

話は横道にそれますが、実は2名ともかなりの有名人です。 「ジャン-ジョルジュ・ヴォンゲリスティン」は、2019年6月現在で、14年連続でミシュランガイド・ニューヨーク版の星を獲得している、ニューヨークのフレンチレストラン「Jean-Georges」のシェフで、ニューヨークタイムズ紙による格付けでも最高の4つ星の評価を受けています。

実は、2014年に東京にもお店をオープンさせ、日本の割烹を意識した独自のオープンカウンタースタイルと、スパイスやハーブを巧みに用いた革新的な料理が話題となっています。

一方の「ジャック・トレス」はM.O.F.(フランス国家最高職人章)の受章者で、2000年に、ニューヨークのブルックリンにチョコレート店をオープン。「ホットチョコレートドリンク」が有名ですが、チョコチップクッキーもニューヨークベスト10クッキーに選ばれるなど、マンハッタンで一番美味しいチョコレート店と言われ、アメリカでは通称「ミスターチョコレート」と呼ばれている人物です。

さて、「ジャン-ジョルジュ・ヴォンゲリスティン」が、モルテンチョコレートケーキを発明したと言ったことに対して、そんなものは以前からフランスにあると反論した「ジャック・トレス」ですが、その根拠は、どこにあるのでしょうか?

調べていくと、1981年にフランス料理界を代表する「ミシェル・ブラス」という人物が、フォンダンショコラを発明したとの記述が出てきました。彼のレストラン「ル・スケ」で供される「クーラン」というデザートがそれだというのです。

フランスでは「ガトー・オ・クール・クーラン(gâteau au cœur coulant)」とも呼ばれています。cœur は一般的には「心」「心臓」などの意味ですが、「中心」という意味もあり、coulantは「流れ」「流水」などの意味ですから、中心が流れるお菓子という意味でしょう。実際、こちらの言葉で検索すると、我々がイメージするフォンダンショコラの画像が出てきます。


▼ガトー・オ・クール・クーラン


「ミシェル・ブラス」も有名なシェフです。1946年生まれで、高等中学校を卒業後、両親が経営するオーベルジュ「ルー・マズュック」の厨房でシェフであった母親について料理の修行を始めます。 32歳で店を引き継ぐと、4年後の1982年にはミシュラン1つ星を、1986年には2つ星を獲得し、1992年にはレストラン「ミシェル・ブラス」をオープンし、1999年、ついにミシュラン3つ星を獲得したのです。

有名シェフたちによって発明されたフォンダンショコラですが、日本にはどのように伝わったのでしょうか?

つづく

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

◇◇◇

このメルマガは、日本創芸学院の「お菓子づくり講座」をご受講いただいた方にお送りしています。

お問い合わせ:学習サービス課 swinfo@sougei.co.jp

※お問い合わせの際は、必ず「お名前(フルネーム)」と「メルマガを受信したメールアドレス」を添えて、お知らせください。





Back Number
バックナンバーはこちら