Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のスイーツ面白事典>

vol.50
チーズケーキ(6)

前回までで、ざっとチーズケーキの世界史と日本史を見てきましたが…
あらためて、なぜチーズケーキは、日本でここまで根付いたのかを考えてみたいと思います。

1930年頃まで、チーズは日本人の口には合わず、見向きもされないものでした。
しかし、戦後、特に東京オリンピック以降、日本の食文化に「洋食」が入ってきました。
このころ、「ピザ」が日本に入ってきます。

1970年になるといわゆるファミレス、ファミリーレストランチェーンが登場し、アメリカ風のメニューとしてピザを大々的に取り上げ、人気メニューとなります。冷凍食品のピザやピザトーストの販売も開始され、ピザは家庭でも親しまれるメニューとなります。そして、1985年に宅配ピザが登場し、人気を博します。

チーズケーキの話なのに、なぜピザの話をしているかというと、日本人がチーズを違和感なく受け入れるようになったことは、ピザの影響が大きいと言われているからです。ピザがチーズを一般化した結果、スパゲティーには「粉チーズ」、食パンにはとろける「スライスチーズ」と、チーズは日本人の食卓にはなくてはならないものになっていったのです。

それにしても、これだけ多様なチーズケーキを有する国は日本だけでしょう。
「レア」「ベイクド」「スフレ」の基本3種に加えて、アメリカの「ニューヨークチーズケーキ」、イタリアの「ティラミス」、フランスの「クレメダンジュ」「フロマージュブランを使った各種のガトー」、そして、スペインの「バスクチーズケーキ」…

なぜ、ここまで、多様なチーズケーキが日本で浸透したのでしょうか?

私は、最大の理由は、日本が「チーズ後進国」だったからだと考えています。
チーズ後進国であったが故に、チーズに対する固定概念がなく、多様なものを受け入れていったのだと思います。

例えば、フランスなどでは、チーズというのは、熟成したもので、塩っぱいもので、そのようなものが甘いお菓子を作るのに使えるわけがないという固定概念があるのです。フランスでも、チーズを使ったお菓子はありますが、そこで使われるのはあくまで、フレッシュタイプの生クリームに近い、フロマージュブランです。カマンベールや、ましてやゴルゴンゾーラなどの青かびチーズを使うことはまず、ありません。


▼ゴルゴンゾーラのケーキ


固定概念とは恐ろしいものです。製菓学校時代、フランス菓子で「タルト・オ・リ」というお菓子を習いました。これは、お米を牛乳で甘く煮て、タルトに詰めたものです。生徒の反応は、「こんなもの食べられない!」。日本人にとっては、お米は主食であり、お菓子の材料に入れるなんて、ましてや牛乳で甘く煮るなんて、というわけです。(おはぎで、あんことは一緒に食べるくせにね?)

このように、チーズに対する固定概念がなかったが故に、日本ではさまざまなチーズを使ったチーズケーキが作られる世界に類のない国となったのです。

チーズケーキ 終わり

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

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