Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のスイーツ面白事典>

vol.48
チーズケーキ(4)

日本におけるチーズ関連の歴史を辿ってみると、以下のようになります。

539年  百済から、蘇、酪が献上される。 
645年  帰化人善那が孝徳天皇に牛乳を献上。
794年〜 平安時代、蘇、酪が作られる。

「蘇」というのは、牛乳を煮詰めたもの。「酪」はヨーグルトのこと。
学校での日本史の授業を振り返ると、仏教伝来が538年、大化の改新(最近は「乙巳の変」と呼ぶ??)が645年ですから、その時代に、乳製品が伝わってきたことがわかります。

しかし、その後、鎌倉幕府の時代になると、蘇や酪は作られなくなります。「幕府」というのは、言って見れば軍事政権のわけですから、牛は、もっぱら農耕や軍役に利用されるようになったわけです。

時代は下って、江戸時代に入り、暴れん坊将軍で有名な?徳川吉宗の頃、なんとインドから乳牛3頭が贈られ、牧場で白牛酪という乳製品を作ります。さらに徳川家斉(1787〜1837年)の頃にはオランダからチーズが輸入されます。

日本が近代化する中、1863年には横浜では、外国人向けに牛乳の販売が開始され、1900年には函館トラピスト修道院でチーズ作りが開始されます。1934年にはプロセスチーズの製造も日本で開始されますが、当時の日本人の口には合わず、全く普及しませんでした。

ここまでの流れを見てわかるとおり、日本は文字通りの「チーズ後進国」だったわけです。


▼チーズケーキ


では、チーズケーキは、日本でいかに今の地位を築いていったのでしょうか?
1つの要因は設備です。1955年頃から、冷蔵庫が家庭に普及するようになり、洋生菓子用の冷蔵ケースも開発されます。もう1つは、チーズケーキの材料となるカッテージチーズやクリームチーズの普及です。カッテージチーズは、1965年頃から、クリームチーズは1970年頃から家庭用に販売されるようになったのです。

このような状況の中、アメリカやヨーロッパからチーズケーキのレシピが入ってきます。
1960年頃には、チーズケーキを売り始めるケーキ屋さんも出現します。
その中で、大々的にチーズケーキが広まるきっかけを作ったのは、トップスとモロゾフでした。

まず、1964年に、トップスが「レアチーズケーキ」の販売を開始します。これは創業者が日本人の口に合うように独自のレシピを開発したものでした。

続いて、1969年にはモロゾフが「クリームチーズケーキ」の名でいわゆるベイクドチーズケーキの販売を開始します。これは、当時の社長がドイツで食べたケーゼクーヘンに感銘を受け、タルト生地にクワルク(フレッシュチーズの一種)とカスタードを合わせたもので、別名カスタードチーズケーキと呼ばれるものでした。

つづく

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

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