Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のスイーツ面白事典>

vol.44
小麦粉の話のまとめ

前回まで、小麦粉の分類とタンパク質量、灰分量の話と、頭を柔軟にして、美味しいお菓子を作るためには、どのような小麦粉を使うべきかを考えようという話をしました。

それでは、実際にどのような小麦粉を使えばよいのでしょうか?

私が以前勤務していたパティスリーでは、薄力粉として「バイオレット」、強力粉として「カメリア」をベースとして用いて、スポンジには前者を、パイや菓子パンには後者を使っていました。たぶん、このあたりが標準的でしょう。

シフォンケーキなど、ふわふわ感を追求したい場合は「スーパーバイオレット」が好まれるようですが、最近では、焼成後の焼き沈みを抑えるために敢えてふつうのバイオレットを使い、しっかりと混ぜ、グルテンを形成するという方法をとるパティシエも増えています。

さて、最近パティシエのあいだで脚光を浴びているのが、「エクリチュール」という中力粉です。フランスで修行したパティシエから、フランスのタイプ45の小麦粉がほしいと望む声が多く、開発されたものです。フランス産小麦100%で作られています。

エクリチュールは、タンパク質量9.2%、灰分0.43%となっています。灰分量が多い粉は粒子が粗く、ザラザラしたものが多いのですが、この粉はサラサラとしていて、ダマもなく評判の良い粉です。サブレやクッキー類に使用すると、ザクッ、ホロッという食感に仕上がり、うま味が感じられる小麦粉です。マドレーヌなどの焼き菓子に使用しても風味よく焼き上がります。

エクリチュールを従来の薄力粉に代えて、スポンジ生地やシュー生地にも使用するパティシエも増えています。ロールケーキ生地に使うと若干割れやすくなるので、ハチミツを入れたり、シュー生地に使う場合は、薄力粉に比べ吸水率が高いので、水分量を15%程度増やす必要があるなど、少し工夫が必要なようですが、うま味が増し、フランスの状態に近くなると言われます。

エクリチュールと並んで、もう1つ話題となっているのが、「テロワールピュール」という小麦粉です。日清製粉が従来フランスパン用の粉として販売していた「テロワール」に代えて販売を開始した小麦粉です。伸展性が良く、成形がしやすく、かつ芳醇な香りと味わいが良いということで、エクリチュールと混ぜて使うパティシエが増えています。

テロワールピュールを混ぜるお菓子としてよく挙げられるのが、タルト生地やガトーバスクの生地など。10:2くらいの割合でエクリチュールとテロワールピュールを合わせる場合が多いようです。

▼クルミのタルトレット(上)と
杏タルトレット(下)
▼ガトーバスク

冨澤商店などの製菓用品店のホームページを検索すると、さまざまな小麦粉が出てきます。 スポンジは薄力粉、パンは強力粉という既成概念を一度捨てて、さまざまな小麦粉を試して自分なりのお気に入りの小麦粉を探してみてはいかがでしょうか?

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

◇◇◇

このメルマガは、日本創芸学院の「お菓子作り講座」をご受講いただいた方にお送りしています。

お問い合わせ:学習サービス課 swinfo@sougei.co.jp





Back Number
バックナンバーはこちら