Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のスイーツ面白事典>

vol.42
フランスの小麦粉(2)

前回、フランスと日本では小麦粉の分類基準が異なり、日本では「タンパク質量=食感」を基準とし、フランスなどでは「灰分量=風味・うまみ」を基準として分類するというお話をしました。

では、なぜこのような違いがうまれたのでしょうか?

これは、日本の洋菓子の歴史を紐解くと見えてきます。戦後、日本に海外から小麦粉が輸入されることになったとき、日本では洋菓子はまだあまり普及していませんでした。そこで、スポンジ生地に似たカステラ生地をベースに考えたわけです。

余談になりますが…
カステラというのは、まだ日本が鎖国している時代の15世紀頃にポルトガルから長崎に伝わったスポンジが独自に日本で進化したものです。鎖国していたために、クリームなどの情報が伝わらず、生地のみを食べるお菓子となったのです。木の箱を使い、きっちりと四角に、同じ高さに、均一な焼き目をキレイに付けて仕上げるカステラ生地には、日本人の几帳面さが反映されていると思いませんか。


このような歴史的背景からカステラが上手に、つまり、キメ細かく、ふんわり、しっとりと仕上がる小麦粉が最上とされ、生地の「食感」を左右するタンパク質の量が基準とされるとともに、生地をくすんだ色にしたり、余計な味わい(雑味)を与えたりする灰分は悪者扱いされ、小麦粉は、灰分含有量が少ないものから、1等粉、2等粉…と等級分けされることとなったのです。


つまり、日本の小麦粉の分類は「カステラ」を基準に考えられたものなのです。
ここから、「グルテンを出さないように混ぜる」という、やたらとグルテンに神経質な日本のお菓子作りの体質?の原因も見えてくるような気がします。

一方で、イタリア、フランス、ドイツなどではどうでしょうか?
彼らは、小麦粉を主にパンというかたちで食べてきました。ケーキのスポンジなどというものは、ずっとあとにできたもので些細なものなのです。彼らにとっては、パンをいかに美味しくするかが重要な問題なのです。パン作りにグルテンはあってあたりまえなもの。彼らにとってはパンの「風味や味わい」に影響を与えるものこそが大切で、灰分の量が小麦粉の基準とされたわけです。

灰分を雑味と考えるか、うまみを与えるものと考えるか。
これは、パン作りだけでなく、お菓子の世界でも、さまざまな生地を作る際に大きく影響してきます。お菓子作りでは、卵やバター、砂糖などいろいろな材料を使うので、そういったものの方に目が行ってしまって、地味な?小麦粉の存在はあまり脚光を浴びることは ありませんでしたが、最近はフランスなど海外の小麦粉の分類基準に着目し、小麦粉を使い分けるパティシエが増えてきています。

つづく

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

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