Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のスイーツ面白事典>

vol.41
フランスの小麦粉(1)

前回まで、フランスと日本のパティスリーの違いについて見てきました。
今回からは、フランスと日本の「小麦粉」の違いについて見て行きましょう。

よく、「海外でお菓子作りを習って、帰国後日本で作ると上手くできない」「夫の転勤で、海外でお菓子作りをしたら、日本のように上手くできない」といった声を聞きます。

さまざまな要因が考えられますが、大きな要因の1つが小麦粉の違いです。もっと正確に言えば、小麦粉の分類方法の違い、もっと突き詰めれば、小麦粉に対する考え方の違いが要因となっていると思われます。

「お菓子づくり講座」のテキスト1のP34を開いてください。
そこには、「小麦粉は、大きく薄力粉と強力粉の2つに分類されます。これは小麦粉に含まれるタンパク質の量による分類です」と書かれています。

そう…。
日本では「タンパク質の量」を基準に小麦粉を分類するのです。

しかし!
フランスでは、全く異なる基準で小麦粉を分類するのです。
全く異なる基準!? それは「灰分(かいぶん)」です!!


フランス、イタリア、ドイツなどでは「灰分の量」を基準に小麦粉を分類するのです。

では、「灰分」とは何でしょうか?
灰分とは、小麦粉に含まれている、リン、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄などのミネラルのことです。小麦粉を燃やすとデンプン、タンパク質、脂質などの成分は燃えてなくなってしまいますが、ミネラル分は灰として残るためこのように呼ばれます。

それでは、タンパク質、灰分は、それぞれお菓子にどのような影響を与えるのでしょうか?

① タンパク質がお菓子作りに与える影響
グルテンはタンパク質から形成されるため、タンパク質の量はお菓子の「食感」に大きく影響します。タンパク質が少ない薄力粉は形成されるグルテンは少なくなるため、軽い食感になります。だから、ふんわりと軽い食感が要求されるジェノワーズ(スポンジ生地)では薄力粉が使われるのです。

② 灰分がお菓子作りに与える影響
灰分は、お菓子の「風味」や「うまみ」に影響します。食感とは関係ありません。特によく焼き込んだ場合に差が出てくるので、最近は焼き菓子に灰分の高い小麦粉が増えてきています。

つまり、日本では「食感」を基準に小麦粉を分類し、フランスなどでは「風味・うまみ」を基準に小麦粉を分類しているのです。


つづく

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

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