Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のスイーツ面白事典>

vol.39
パリのお菓子事情(4)

前回は、日本のパティスリーでは見かけないが、フランスのパティスリーで見かけるものとして「お惣菜」の話をしましたが、今回は日本でも見かけるが、フランスの方が、圧倒的に種類が多いものの話をしましょう。

日本ではショーケースを覗くと、いわゆるプチガトーと呼ばれる小型のケーキが大勢を占め、ホールケーキといえば、ショートケーキとロールケーキあたりが申し訳程度にならんでいるというお店がほとんどです。一方、フランスではホールケーキの種類も豊富で、特に日曜日にはいつも以上に並びます。

これは、なぜでしょうか?
一般に、フランスをはじめとするヨーロッパ圏ではキリスト教の人が多く、多くの家庭で 1つのホールケーキを家族で分けて食べることによって一体感を保持するようなところがあり、特に日曜日のミサのあとは家族で食事をすることが多く、ホールケーキが売れるのだといいます。


個人主義的に見えるヨーロッパ人が家族でホールケーキを分け合い、団体主義的に見える日本人が、家族それぞれの好みのプチガトーを食べる、なんだか面白いですね。

フランスのパティスリーでは、ホールケーキの横に目をやると、冷凍ケースがある場合が多く、そこには「アイスクリームケーキ」が陳列されています。最近、日本でも夏場には見かけることが多くなりましたが、フランスでは真冬でも陳列されています。

アイスクリームケーキは、フランスでは「アントルメ・グラッセ」と呼ばれ、通常の生ケーキ同様、ホールのものが何種類も売られているのです!


アイスクリームというと、日本では夏限定のお菓子という感覚が強いかも知れませんが、フランスでは「グラス(アイスクリーム)」というのは、1つの分野として確固たる地位を与えられており、M.O.F.(国家最高職人章)においても、グラシエ(アイスクリーム職人)として認定されます。

生ケーキやアントルメ・グラッセのほかにも、タルトやキッシュもホールでいろいろな種類が売られています。タルトに関しては、いわゆるホールでの販売用のもののほか、大きな天板いっぱいにタルトを焼き、店頭でそれぞれの顧客が欲しい分だけ切り分けて販売するというやり方もよく見かけます。


よく、お店をやっている人や、これからお店を開こうとしている人から、店の目玉になるような商品を作りたいと相談を受けることがありますが、このように焼きたてのお菓子を切り分けて販売するやり方は、あらかじめ時間等を告知しておけば、顧客を呼び寄せるイベントのようなものになり、販売促進に資するものとなります。

海外に行ったときは、商品だけでなく販売方法なども気をつけて見るようにすると、自分のビジネスに使えるものがたくさんあります。 

つづく

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

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