Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のスイーツ面白事典>

vol.38
パリのお菓子事情(3)

前回までの2回は、日本のパティスリーでは見かけるが、フランスのパティスリーでは見かけないもの(ショートケーキ、シュークリーム、チーズケーキ、モンブラン)のお話をしました。

今回からは逆に、日本のパティスリーでは見かけないが、フランスのパティスリーで見かけるものを見て行きましょう。

フランスのパティスリーを訪れて、一番驚くのは、魚のパイ包みなどの「お惣菜」を売っていること! 日本ではいわゆる「デリ」(デリカテッセンDelicatessenの略=お惣菜を売る店のこと)で売っているようなものを、お菓子の横で売っているのです!!

なぜでしょうか?
これは、パティスリー(patisserie)の語源を探っていくとわかります。
パティスリーの語源となったパート(pate)という語は、小麦粉に水を加え、練ったものを意味します。もともとは、古代ギリシャ語で大麦がゆを意味したパステ(pasti)に由来し、これがラテン語のパスタとなり、フランス語のパートとなったのです。そして、これで作ったものをパティスリーと称するようになります。

つまりパティスリーとは、本来、小麦粉の練り生地を用いたもの全般を指し、そこにはお菓子だけでなく、パイ包みのような料理、パンも含まれるわけです。昔は明確な区分はありませんでしたが、13世紀〜18世紀にかけてフランスでは色々な業種が自らの業務領域を巡って争い、15世紀半ば、菓子屋は、菓子のほかにパテ料理の権利も持って、パン屋から独立したのです。

パテ料理とは、肉や魚、野菜などを、パイ生地など小麦粉を練って作った生地で包んだオーブン料理のことで、パティシエとは、本来このようなパテ料理を作る職人を指したとも言われるほどです。

最近の菓子店は、チョコレートに特化する店、マドレーヌに特化する店など、専門化が進み、何を売っているか入って見ないとわかりにくくなっているので、親切なお店では看板に<トレトゥール(お惣菜)、ブーランジェリー(パン屋)、コンフィズリー(砂糖菓子)>など、扱う分野を列記しています。

トレトゥール(traiteur)と看板に書いてあると、キッシュやパイのほか、サラダ類も充実。ダロワイヨ、ルノートルなど、日本でもよく知られたお店でもこれらが充実しています。

日本においても、フランス流の本格的なパティスリーを目指すお店では、生菓子、焼き菓子と並んで お惣菜も販売するお店が見られます。

東京都世田谷区尾山台の「オーボンヴュータン」、東京都世田谷区赤堤の「ノリエット」などがそうです。機会があれば、一度訪問してみてください。 


つづく

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

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