Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のスイーツ面白事典>

vol.37
パリのお菓子事情(2)

前回は、パリのパティスリーでは、ショートケーキやシュークリームはあまり見かけないというお話をしました。

実は、これ以外にも、日本では定番なのに、パリのパティスリーでは見かけないお菓子があります。 それは、チーズケーキとモンブランです。

日本のケーキ屋さんでは、ベイクドタイプ、レアタイプ、スフレタイプなど、さまざまなタイプのチーズケーキが売られていますが、パリのパティスリーのショーケースではあまりお目にかかることはありません。
(もちろん、パリにもアメリカ風のチーズケーキを売るお店やチーズ店でチーズを使ったスイーツを売っているお店はあります)


なぜでしょうか?
よく言われるのが、「フランス人は、食事のあとに、チーズとデザートを楽しむのが好きだが、チーズケーキは、チーズとデザートとが1つになったもので、楽しみが1つ減ってしまう」ということ。

いろいろな本を読んでいると、まだ医学が科学的でなかったころ、チーズは体を温め、消化を助けるなどの説が唱えられ、食習慣として食後にチーズを食べるようになったため、デザートに食べられるお菓子にはチーズを重ねて使用することはしない・・・というあたりが本当のところのようです。

もう1つのモンブランは、どうでしょうか?
こちらは、パリにおけるモンブランの元祖といわれる「アンジェリーナ」のほか、ジャンポールエヴァンや、ラデュレなどでは見ることができますが、一般のパティスリーではさほど見かけません。


もともとモンブランは、モンテ・ビアンコ(イタリア語で、「白い山」の意味)というイタリア発祥のお菓子で、これをヒントにアンジェリーナのシェフが考案したともいわれますし(モンブランはフランス語で「白い山」の意味)、日本のモンブランも、やはりイタリアのモンテ・ビアンコをベースに独自に作られたものです。


モンブランでも、特に土台がスポンジあるいはカステラのものは、日本生まれなので、まずパリで見かけることはありません。フランスでは、モンブランの土台はメレンゲというのが基本で、フランス菓子の教本の中でも、モンブランはメレンゲ菓子の一種として分類されています。

しかしながら、フランスでもドイツの影響が強い、アルザス地方に行くと、チーズケーキもモンブランも パティスリーのショーケースの中にしっかりと並んでいます。

チーズケーキの方は、「タルト・オー・フロマージュブラン(Tarte au fromage blanc)」と呼ばれ、日本でいうところのスフレタイプのチーズケーキ、一方のモンブランは、「モンブラン(Mont Blanc)」と表記しているお店もありますが、もっぱら「トルッシュ・オ・マロン(Torche au Marron)」と呼ばれています。トルッシュとはフランス語で「松明(たいまつ)」の意味。マロンクリームの形がそのように見えるのでしょうか。

つづく

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

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