Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のスイーツ面白事典>

vol.24
花びら餅

年末ですね。いよいよ今年もあとわずか・・

今日は、お正月に欠かせない「花びら餅」の話をしましょう。


花びら餅というのは、薄く伸ばした丸い白い餅の上に、薄く伸ばしたピンク色のひし形の餅をのせ、その上に味噌餡と、甘く煮て、5㎜くらいの太さで長さ10㎝弱に切った牛蒡(ゴボウ)を置いて2つ折りにして半円状にした和菓子で、皇室の正月行事や配りものとして使用される「菱葩(ひしはなびら)」に由来すると言われます。

その昔、宮中では「歯固め(はがため)」という正月行事が行われていました。これは、イノシシ、鹿、大根、瓜、押し鮎(鮎の塩漬け)など固い食べ物を食べる行事で、「歯」という字が「齢」に通じることから「歯を固める」=「齢(年齢=長寿)を固める」ということで、長寿を願う儀式でした。

「菱葩(ひしはなびら)」は、この行事が儀式化、簡略化される過程で生まれたものとされ、餅と味噌の組み合わせは雑煮にも通じることから、別名「包み雑煮」とも呼ばれます。ちなみに間に挟むゴボウは、押し鮎に見たてていると言われます。

江戸時代には、今でも有名な「川端道喜」が宮中に「菱葩」を大量に納め、挨拶にきた公家に配られたり、供え物として用いられました。明治時代になると裏千家の11世玄々斎が宮中より許され、初釜のお菓子として使われるようになります。これが「花びら餅」というわけです。

ただ厳密にいえば、「菱葩」と「花びら餅」には、いくつかの違いがあります。
まずはその大きさ。「菱葩」は直径が5寸といわれるので約15㎝の大きなものですが、花びら餅は だいたい8㎝~10㎝くらいで小ぶりなものとなっています。


次に味わいも異なります。「菱葩」の方は餅や味噌に甘味はありませんが、花びら餅の方は、餅自体に甘味がつけられ、味噌も味噌餡にされ、甘く仕上げられています。

丸餅に菱餅を合わせる理由については、陰陽道の考え方が反映されているといわれます。陰陽道においては、すべてのものを、天と地、男と女というように二元に分けるので、丸と四角を合わせることで万物を包み込む意味があるとされ、天下泰平、子孫繁栄の願いが込められているとも言われます。

昔は宮中の人々しか味わえなかった「菱葩」。今年のお正月は歴史に想いを馳せながら由緒ある和菓子を味わってみてはいかがでしょうか。有名和菓子店では、12月から花びら餅の予約を受け付けるところが多いので、お目当ての店のものを必ず入手したい方は、是非ご予約を。

それでは、皆様、どうぞ良いお年をお迎えください。

 

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

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