Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のスイーツ面白事典>

vol.21
タルトタタン(2)

前回に引き続き、タルトタタンのお話です。

 

ずいぶん前の話になりますが、ある雑誌からタルトタタンの話を書いてほしいといわれ、前回記事に登場した、高級フランス料理店「マキシム・ド・パリ」の日本のお店※に、タルトタタンに関する資料の提供をお願いしたことがありました。
※2015年6月30日閉店

そのときに広報の方よりいただいた資料を拝見してびっくり!
それは以下のような内容だったのです。

マキシム・ド・パリのオーナーであるルイス・ボーデブルは、若い頃、ラモット・ブーヴロンによく狩りに行っていた。ある日、狩りの途中に立ち寄った、2人の高齢の女性が運営するホテルで食事をとったときに素晴らしく美味しいタルトがデザートとして供された。キッチンに行ってそのレシピを教えてほしいと頼んだが教えてもらえなかった。後日、彼は庭師と称してそのホテルに雇われ、レシピを探ろうとする。結局、何も庭仕事が出来ない彼は3日でクビになってしまうが、そのあいだに レシピを手に入れ、自分の店のデザートとして出すようになった。

パリの有名レストランのオーナーが地方ホテルからレシピを盗んだ!?
そんな話を記事にできるわけもなく、結局、雑誌社には当たり障りのない内容の記事を提出し、無事仕事は完了しましたが、今、考えると、提出された資料はフランス人特有のエスプリが効いたジョークだったのでしょう。

年代を調べていくと、オーナーのボーデブルがまだ子供の頃にタタン姉妹は死亡しており、彼女たちの作ったタルトを食べるのは不可能だからです。きっとキュルノンスキーと同じく、オーナーが「創作した逸話」だったのでしょう。

さてさて、タルトタタンを巡るさまざまな逸話を紹介してきましたが、確かな事実もあります。 それは、HOTEL TATIN(オテル・タタン)は今でも、ラモット・ブーヴロンで営業しているということ! ホームページもあるので、ご興味がある方は、是非ご覧になってください。
http://www.hotel-tatin.fr/fr

このラモット・ブーヴロンには「ラ・コンフレリー・デ・リショヌー・ドゥ・タルト・タタン(La CONFRERIE DES LICHONNEUX DE TARTE TATIN)」という「本物のタルトタタンを食べる会」という会が存在し、タルトタタンの味と名声を守り続けています。

そんな本場フランスの会から認められたタルトタタンを作り続けるお店が京都にあるのをご存知でしょうか? 平安神宮横の「ラヴァチュール」です。残念ながら初代女将の松永ユリさんは他界されましたが、お孫さんがあとを継がれ、大切に味を守られています。

 

飴色になるまで煮詰まったりんごが、ぎっしりとのったタルトは最高です!
京都に行かれた際には、是非味わってみてください。

(タルトタタン 終わり)

 

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

◇◇◇

このメルマガは、日本創芸学院の「お菓子作り講座」をご受講いただいた方にお送りしています。

お問い合わせ:学習サービス課 swinfo@sougei.co.jp





Back Number
バックナンバーはこちら