Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のスイーツ面白事典>

vol.18
プリンの歴史(2)

前回、プリンは、船乗りの知恵から生まれた料理が変化したのだという説を紹介しました。
実は、これに対して、「ソーセージ」こそが、プリンの原型であるという説があります。

ソーセージがプリンの原型!?  いったい、どういうことなのでしょうか。

豚や牛を、肉を得るために解体すると、肉のほかに臓物や血が出てきます。これらも貴重な食料ですが、レバーのように柔らかかったり、血のように液状のものは取り扱いが大変です。ビニールのラップなどなかった時代ですから、人々は同じく解体したときに得られる腸にそれらを詰めることを思いつき、いわゆる「腸詰」、今でいうソーセージが生まれました。

ちなみに中世のソーセージには大きく分けて、①くず肉の小片を詰めたもの、②臓物を詰めたもの、③血と穀物を詰めたもの、の3つの種類がありました。③のものは血が入ると色が黒くなるので、「ブラック・プディング」と呼ばれました。(ちなみに、血入りソーセージは現在でも作られており、フランス料理では「ブーダン・ノワール」の名で、ビストロなどでポピュラーな料理。日本のビストロなどでもたまに見かけます)

 

少々、脱線しますが、puddingの語源は古英語で「腫れ物」を意味するpuducであるとも言われていて、色々なものを詰めて膨らんでいく腸の様子がまるで「腫れ物」が出来ていくように見えたのでpuddingと呼ばれたのかも知れません。

一方で、血入りのブラック・プディングに対して、牛乳や卵とともに肉、臓物、穀物を詰めた「ホワイト・プディング」と呼ばれるものも作られるようになり、「プディング」は、<何かを詰めたもの>という非常に広い概念になっていきます。また、いちいち腸に詰めるという作業は面倒なので、代わるものがないか模索されるようになります。

17世紀になると、「プディング・クロス」と呼ばれる布が腸の代わりに使われるようになります。これは布で材料を包み、お湯の中で茹でるというもの。この布の出現により、家庭でも簡単にプディングが作れるようになり、バリエーションは一気に増えていきます。家庭でプディングを作るときに用いられた主な材料としては、パン屑、米、穀物、牛乳、クリーム、卵、ドライフルーツ、ナッツ、砂糖、スパイスなど・・・

今では、イギリスのクリスマス菓子として名高い「クリスマス・プディング」のほか、われわれにもなじみ深い「パン・プディング」なども、このころに生まれたものだとされています。これらのプディングは、茹でることから「ボイルド・プディング」と呼ばれますが、やがて蒸して作る「スチームド・プディング」へと変化していくことになります。

 

このあたりまでお話しすると、前回お話した船上で作られた<余り物の茶碗蒸し>のようなプディングと話がつながってきますよね。つまり、ソーセージの一種である「ホワイト・プディング」や「プディング・クロス」、「スチームド・プディング」という前提があって、船上の余りものプディングが誕生したと考えられるのです。


(つづく)

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

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