Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のスイーツ面白事典>

vol.17
プリンの歴史(1)

6月が近くなり、少し蒸し暑さも感じられるようになってきましたね。
こんなとき、食べたくなるのが、つるりとした食感のプリン!
これから3回にわたり、プリンの壮大な?歴史のお話をしましょう。

 

まず、名称の話から始めましょう。日本では、一般に「プリン」と呼ばれますが、綴りはpudding で、「プディング」が正しい発音となります。日本の洋菓子店で売られているお菓子の多くがフランスに由来するものが多い中で、プリンはその綴りからもわかるとおり、英語圏のお菓子であり、一般的にはイギリス発祥のお菓子とされています。

では、フランスにはプリンはないのかといえば、しっかりと存在しています。フランスでの名称としては、そのまま「プディング」と呼ばれることもありますが、一般的には「クレーム・ランヴェルセ」あるいは「クレーム・キャラメル(カラメル)」と呼ばれます。クレーム・ランヴェルセとは直訳すると、「ひっくり返したクリーム」という意味で、型に入れて蒸し焼きにしたものを最後に皿の上にひっくり返して出して供するのでこの名が付いたのでしょう。主たる材料は、卵と牛乳、砂糖で、ふつうは、生クリームは使いませんが、そのなめらかな食感からクレームと呼ばれています。

ちなみに、材料に生クリームを使い、仕上げにカソナード(サトウキビから作られる粗糖)を振りかけ、バーナー(または焼きゴテ)で焦がして表面をパリッと仕上げたお菓子が「クレーム・ブリュレ」で、こちらは、スペインのカタロニア発祥のお菓子である「クレマ・カタラーナ」に由来すると言われています。

 
 

さて、いよいよプリンの歴史の話に入りましょう。
よく言われるのは、船乗りの知恵から生まれた料理が変化したものだという説です。

詳しく説明しましょう。16世紀後半、英西戦争において、イギリスがスペインの無敵艦隊を撃破、海の覇者となった時代の話です。軍艦は一度出航したら何日も港に戻れません。当然、航海中は手持ちの食料を最大限有効活用しなければならず、肉をさばいたときに出る小片やパンを切ったときのパン屑も大事にしなければなりません。

しかし、問題は料理法です。そのような種類の異なる、こまごました材料でどうやって料理を作るか。 思案の末、余った材料を全部合わせて卵液と一緒に混ぜて適当に味付けし、ナプキンで包んで蒸し焼きにしたら、日本でいうところの「茶碗蒸し」のようなものが出来た。これが「プディング」の原型だというのです。

これがやがて陸上でも作られるようになり、最初は、肉から切り取った脂身やフルーツ、ナッツ、パン屑など色々なものを入れて作っていましたが、やがて味わいを考え、材料を選ぶようになります。
パンだけを入れた「パン・プディング」などは今でも見られますが、やがて具を何も入れない、純粋に卵液だけを甘く味つけして固めたものが誕生しました。これが「カスタードプディング」の始まりです。

つまり、カスタードプディングは、ごた混ぜの茶碗蒸しから具を取り除いた、いわば、「引き算」で生まれたお菓子だったのです。


(つづく)

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

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