Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のスイーツ面白事典>

vol.10
モンブラン その2

前回に引き続き、モンブランについて深く掘り下げていきます。
今回は、日本でのモンブラン事情を概観してみましょう。

前回、日本に伝わったモンブランには以下の2系統があることを説明しました。
①黄色いモンブラン(日本流)で、スポンジ(カステラ)生地を土台としたもの
②茶色いモンブラン(フランス流)で、メレンゲ生地を土台としたもの

日本では、その後2つが交じり合い、
●ベースは黄色いモンブラン(日本)だけれども、土台がメレンゲ(フランス)
●ベースは茶色いモンブラン(フランス)だけれども、中にスポンジ(日本)も入っている
そのほかにも
●ベースは茶色いモンブラン(フランス)だけれども、土台がタルト生地
なども誕生しています。

 
 

これだけ、モンブランにいろいろなバージョンが生まれるのは、それだけ栗という素材が日本人に愛され、モンブランというケーキも日本人に愛されている証拠なのでしょう。ここ何年かのトレンドとしては、さらに「日本人らしさ」を反映した究極のモンブランが生まれてきています。

それは、次のようなものです。
①栗のペーストは自家製(新鮮さを追求)とし、素材の栗には和栗(日本)を使用する。
②使用する和栗の産地を変えていく(季節感を追求)。
③作り置きはせずに、注文を受けてから組み立て、賞味期限を30分とするなど、極めて短く設定する。(出来立て感・美味しい瞬間を追求)

 
 

説明をしていくと、
①ふつう茶色いモンブランを作る場合は、缶詰のマロンペーストやマロンクリームを使用することが 多いのですが、これを、和栗を仕入れ、1つ1つ皮を剥いて、自店でペーストを作るのですから相当な労力を要します。手間ひまをかけてもオリジナリティーを出すわけです。

②はなぜ産地を変えるかというと、桜と同じように栗の旬も北上していく傾向があるので、最初は九州地方の栗を使い、次は山陰、近畿と旬をむかえる栗を追いかけるように、原料の栗を変えてペーストを作ることにより味わいの変化を出し、リピートを促進します。

③一応フランス菓子なので、ベースはメレンゲにするわけですが、作り置きしてしまうと、メレンゲがクリームの水分を吸って湿ってしまい、カリッとした食感が楽しめなくなり、柔らかなクリームとの食感のコントラストも失われてしまいます。そこで注文を受けてからメレンゲの上にクリームを絞って組み立て、賞味期限を短くして早めに食べてもらおうというわけです。

こうした取り組みは、ご自分でケーキショップやカフェを開業するときにもおおいに参考になります。 開業を考えておられる方は、是非覚えておきましょう!

さて、「素材の旬」を大切にし、「食べるタイミング」に合わせてお菓子を調製する。ここまでくると、 これらのモンブランは、もはやフランス菓子というよりは、日本人ならではの努力と感性が生み出した、究極の「和菓子」といえるのではないでしょうか。あっぱれ!日本人。

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

◇◇◇

このメルマガは、日本創芸学院の「お菓子作り講座」をご受講いただいた方にお送りしています。

お問い合わせ:学習サービス課 swinfo@sougei.co.jp





Back Number
バックナンバーはこちら