Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のスイーツ面白事典>

vol.9
モンブラン その1

秋に入ると、気になるのが栗のお菓子。特にモンブランですよね!?
モンブランと聞いて、皆さんは、どんな色のケーキを思い浮かべるでしょうか?
黄色?それとも茶色?

実は、モンブランは2つのルートで日本に伝わったため、2系統あるとご存知でしたか?
1つは、黄色いモンブラン。こちらは今でも東京の自由が丘に店をかまえる「モンブラン」の初代店主がモンブラン峰の近くを旅したときに出会ったお菓子をもとに考案したもの。こちらはカステラ生地を土台にして、カスタード、生クリームを絞り、さらにその上から甘露煮にした栗を使ったクリームを絞り、上に小さなメレンゲをのせたもの。周囲のマロンクリームはモンブラン峰の岩肌を、上の白いメレンゲは峰に降り積もった万年雪を表しているのだそう。栗のクリームは、栗きんとんを念頭に考えられたため、黄色いものとなりました。こちらが全国的に広がったのが、日本生まれの黄色いモンブランです。

 

では、茶色いモンブランはというと、こちらは、1960年代以降フランスに修業にいったパティシエたちが日本に伝えたフランス生まれのモンブラン。パリで最初にモンブランを供したのは、現在、日本にも出店しているアンジェリーナというお店。こんな誕生秘話があります。新作を考えていたアンジェリーナのパティシエが奥さんに相談したところ、彼女の出身のイタリアのピエモンテ州では、秋になると栗を煮てペースト状にしたものに生クリームをのせた「モンテビアンコ」というデザートがあることを聞きます。イタリア語で、モンテは山、ビアンコは白。つまり「白い山」。栗のペーストを山脈に、生クリームを万年雪に、モンブラン峰に見立てたものでした。パティシエは、早速試作にとりかかります。生クリームは柔らかく、栗はもっさりとしているので、食感のコントラストをつけるため、メレンゲを土台にして、組み立てました。栗のペーストを麺状に絞り出すのは一説にはイタリアのパスタを模しているとも言われます。こちらは「モンブラン」と命名されました。フランス語で、モンは山、ブランは白。同じく白い山という意味。イタリア語をそのままフランス語にしたわけです。

 

実は、先の初代店主が旅先で出会ったお菓子も「モンテビアンコ」だったといわれます。同じお菓子から発想を得て作られた、日本型モンブランとフランス型モンブラン。興味深いですね。

さて、日本ではモンブランといえば、洋菓子店の定番ケーキとなっていますが、フランスでは、特にパリではあまり見かけません。あくまで、アンジェリーナというお店のスペシャリテという感じです。 日本では、栗というと高級品というイメージがあります。たしかにヨーロッパでもマロンと呼ばれる大粒のものはマロングラッセにされるなど高級品ですが、小粒のシャテーニュは、乾燥させて保存したり、挽いて粉にして小麦粉の代用とするなど、どちらかというと貧しい人々の食べ物だったという歴史的経緯があります。栗のイメージは、高級品であるケーキの材料としては、あまりふさわしくないのかも知れません。


さて、お菓子づくり講座においても、第3巻で「モンブラン」が登場します。こちらはメレンゲを土台にしたフランス型。作るときのポイントは2つ。1つはメレンゲにしっかりと火を入れ、中をキチンとキャラメル化させること。もう1つは、生クリームを絞ったら、冷凍庫でしっかりと冷やし固めること! 冷やし方が足りないと、マロンクリームを絞ったとき、重さに耐えきれずに生クリームが潰れてしまい、悲惨な結果になるのでご注意を! 頑張って挑戦してみてください。

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

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