Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のスイーツ面白事典>

vol.8
シュー生地のルーツと応用

洋菓子の中でも不動の人気を誇り、ショーケースの中で必ず見かけるのが、シュークリーム、エクレアといったシュー生地を使ったお菓子です。今日は、そのシュー生地の起源を辿ってみましょう。

お菓子づくり講座を受講され、実際に作られた方はご承知でしょうが、シュー生地は、バターなどを加えて沸騰させた湯、牛乳に小麦粉を入れて火を入れたものに卵を混ぜ合わせ、絞り、オーブンで焼成というプロセスで作ります。

スポンジでもクッキーでもパンでも、火を入れるのは最後の焼成段階だけなのに、シュー生地は生地を作る段階でも火を入れるという特異な作り方をします。ここから、シューは既に何かしらの完成したものに更に手を加えた(焼成)のではないかと推論されるのです。

シュー生地の材料は、水、牛乳、バター、小麦粉、卵。これらの材料から考えられるのが、まず、 ①カスタードクリーム。これは温めた牛乳に、卵黄に小麦粉を加えたものを混ぜます。今ではお菓子のクリームとして砂糖を加えますが、17世紀頃の本のレシピでは砂糖を使われておらず、料理用のクリームだったとも言われます。もう1つ考えられるのが②ベシャメルソース。こちらはバターで小麦粉を炒め、牛乳を加えて作ります。

いずれにしろ、シューの原型は、今のようにオーブン焼成するのではなく「揚げ」て作られたものでした。フランスではこの揚げシューは「ペ・ド・ノンヌ(尼僧の屁)」と呼ばれます。伝説によれば 18世紀頃ある尼僧が料理中にいたしてしまい、恥ずかしさのあまり何かの生地を油の中に落として膨らんだのが始まりといわれています。お菓子にこの名はふさわしくないと最近は「スーピール・ド・ノンヌ(尼僧のため息)」という名でも呼ばれます。

 

皆さんも、シュークリームやエクレアを作っていて、絞り袋の中に生地が余ったら、熱した油の上で生地を絞り出し、1㎝くらいのところでキッチンハサミで生地を切って油の中に落とせば簡単にペ・ド・ノンヌを作ることが出来ます。膨らんでキツネ色に揚げたものに砂糖をふりかければ、伝統のスイーツが出来上がりです。

因みに、シュー生地にグリュイエールチーズをおろしたものを加えてオーブンで焼くと「グージェール」というフランス料理の前菜になります。もちろん普通に焼いたシュー生地にツナやゆで卵をマヨネーズで和えたものを詰めても立派な前菜になります。


「揚げて」よし、「焼いて」よしのシュー生地ですが、「茹でる」とどうなるか? 実は「ニョッキ・パリジャン」という料理になります。ニョッキといえば、ジャガイモやセモリナ粉で作るのが一般ですがパリではシュー生地を使い、より洗練された一品に仕上げられています。

揚げシューと同じ要領で湯の上で生地を絞り、大きめにカットしたものを茹で、ベシャメルソースと和えたものを耐熱皿に入れ、グルュイエールチーズなどをかけて、オーブンで焼き色を付けると豪華な料理になります。お試しあれ!

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

◇◇◇

このメルマガは、日本創芸学院の「お菓子作り講座」をご受講いただいた方にお送りしています。

お問い合わせ:学習サービス課 swinfo@sougei.co.jp





Back Number
バックナンバーはこちら