Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のスイーツ面白事典>

vol.5
アフタヌーンティー その1

そろそろ6月。梅雨の季節が近づいてきましたね。

ヨーロッパには日本の梅雨のようなものはありませんが、ロンドンなどでは雨がよく降ります。 ロンドンに滞在したときに、天気予報を見ると、「晴れ時々曇り時々雨」という日が多く、「これでは役に立たないね」と家内と笑ったものですが、実際、1日のうちでくるくると天気が変わるのです。 朝、晴れていると思って出かけると急にパラパラきたり、逆に出かける時に雨が降っていてもすぐに晴れてきたりと、本当に猫の目のように天気が変わるのです。

 

さて、今日は雨の日を楽しく過ごすアフタヌーンティーの話をしましょう。 アフタヌーンティーは直訳すれば「午後の紅茶」。1840年代イギリスのベッドフォード侯爵夫人であったアンナにより始められた習慣であるといわれます。当時の上流階級の食生活は、朝食をたっぷりと食べて、昼食は軽く済ませて、夕食はオペラ鑑賞など夜の社交が終了してからという風になっていて、昼食と夕食のあいだがかなり空いており、小腹を満たすためメイドにサンドイッチやお菓子を用意させたのが始まりだといわれています。アンナが友人を招いて紅茶やお菓子を振る舞ったことから、この習慣はたちまち貴族の間に広まっていき、今でもロンドンの食文化の中に深く根付いています。

家内とロンドン滞在中にアフタヌーンティーについて研究しておられる方のお宅に伺いました。スコーンやショートブレッドの作り方を習ったのちに、アフタヌーンティーの席に着きました。ソファーの前のローテーブルにはサンドイッチやケーキが並んでいますが、アフタヌーンティーにつきものの、あの3段プレートがどこにもありません。


「3段プレートは使わないのですか?」と質問すると、次のような答えが返ってきました。 「もともとアフタヌーンティーは貴族が始めたもので、ソファーの前のローテーブルにまず、小腹を満たすサンドイッチなどを出し、みんなが満足するとそれを一旦ひき、次いでスコーン、お菓子といった具合にメイドや執事に運ばせたもの。でも、それをホテルでやろうとすると大きなテーブルを用意したり、何度もボーイが食べ物を運ばなくてはならないので、小さなスペースで、かつ運ぶのが一度で済むように考案されたのが3段プレート。それが一般化してしまって、アフタヌーンティー=3段プレートみたいになっているけれど、あれは、そもそもホテルが省エネのために考案したもので、家庭のアフタヌーンティーには無用の長物よ。」

「だってそうでしょ!? 家庭で、わざわざお客様を招待しておいて、省エネのための道具を使うなんておかしいでしょう?」と先生。 言われてみれば、ごもっとも。だいたい、貴族が始めた習慣なんだから、メイドや執事に作らせて、 順番に持って来させれば済む話ですしね。

やっぱり、なんでも本場に行ってみなくては、わからないことがたくさんあります。

アフタヌーンティーには、まだまだ面白いことがたくさんあったので、次回も引き続きお話ししましょう!

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。
日本創芸学院「コーヒーコーディネーター養成講座」テキスト「コーヒーショップの経営」について執筆を担当、「飲食店開業セミナー」講師も務める。

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