Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のお菓子修業日記>

vol.63
卒業試験 (最終回)

いよいよ卒業試験だ。卒業試験は2日間かけて行われる。
まず1日目は、作品をのせる台を、パスティヤージュを使って作る。それからデコレーションに使用するパーツの仕込みだ。2日目はケーキ本体を作り仕上げる。

<1日目>
パスティヤージュというのは、粉糖、コーンスターチ、ゼラチンなどを水で溶かして練ったもので、粘土状になり、乾燥させると非常に固くかたまるので、ピエスモンテという工芸菓子などを作るときに用いられる。今回はこれで、ケーキ台を作り、自分のオリジナルケーキをのせて提出する。


作り方は簡単で、材料を混ぜて、よく練ったら平らに伸ばして組み立てたら乾かすだけ。今回は周りに装飾を施す。ケーキのデコレーションのパーツ作りの方に多くの時間を割きたいので、台の装飾はあっさりと終わらせる。

ケーキのデコレーションに使用するチョコレートの制作に取りかかる。テンパリングを行い、転写シートの上にチョコレートを流して薄く伸ばし、模様をつける。転写シートは、製菓道具店で売っており、テンパリングしたチョコレートを上に流せばシートの模様がチョコレートに付着する、アップリケのようなものだ。これが終わったら、葉の形をしたチョコレートをつくる。

次は洋梨を薄くスライスして白バラを作る。学校で用意してもらったシロップ漬けの洋梨がかなり柔らかいものが多く、自宅で作ったときよりも作りにくい。

ここまで1日目の作業は終了だ。

<2日目>
テスト当日。自分のレシピや手順表なども持ち込み可で、今までのようにレシピや手順を暗記する必要はないので、その分は気楽だが、やはり失敗は許されないので、相当緊張する。

まずは生地作りから。しっかりと泡立てて細く絞っていく。なかなかいい感じだ。粉糖を振りかけ、オーブンで焼く。その間にマロンムースと洋梨のクリームをつくる。生クリームを泡立て、パートマロン、クレームマロンとコニャックを合わせてマロンムースを作り、生クリームに洋梨のリキュールにつけておいた洋梨の角切りを混ぜていく。

焼き上がった生地を冷まし、組み立てに取りかかる。セルクル(金属製の丸型の輪)の内側に側面に沿って生地を立てて入れ、底生地を入れ込む。底生地の厚さは1㎝、これにマロンムースを1.5㎝入れる。続いて洋梨のクリームを1㎝。ここまで合計3.5㎝。これに最後、洋梨のシブーストを1㎝積み上げれば、本体の組み立ては完了だ。

落ち着いて洋梨のシブースト作りに取りかかる。最後の難関だ。牛乳に洋梨のピューレを入れて沸騰させ、コーンスターチと混ぜた卵黄を、ゼラチンなどを入れ、よく混ぜて常温で置いておく。一方で卵白をしっかりと泡立ててイタリアンメレンゲを作る。先の卵液とイタリアンメレンゲを混ぜ、シブースト液が出来たら土台に流し入れる。表面をパレットで平らにならし、一旦冷やす。

シブーストの表面をバーナーで焼いて焼き目をつける。秋っぽさを茶色で表現する。再び冷やし、 取り出したら、表面にナパージュ(艶出しのゼリー)を塗る。洋梨で作った白バラ、マロン、チョコレートの飾りを刺し、完成!! ケーキを台の上にのせ、審査室に持っていく。


生徒全員の作品が出来上がったところで、講師陣が審査室に入り、審査開始!

しばらくして、生徒が全員、審査室に呼ばれる。

結果は??    全員合格!!  「やった~!」 思わず、生徒から歓喜の声があがる。

一人ひとりの作品について、先生から講評をうける。 「キチンとルールを守り、味わいも素晴らしい。特に季節に合わせて栗と洋梨という秋の素材を使ったことも評価する」。好評だった。

卒業試験と講評を終え、喜びと同時に安堵感が胸に広がる。 9か月に及んだ製菓学校での菓子修行は終わった。タルト生地が上手くできず、苦労した日々、中級のテストで手が震えてシロップが出来ず、頭が真っ白になったこと、色々な思い出がよみがえる。 しかし、製菓学校を卒業することは、修業の第一歩に過ぎない。これからも修業を重ねていかねば。 決意を新たにする日でもあった。

 完


ご愛読いただいている皆様へ

お菓子の修業日記いかがだったでしょうか。

「忙しくて製菓学校に通えない」そんな方々に、製菓学校ではどのようなお菓子を、どのように教えているのかをお伝えできればと思い、実際に私が学校に通っていたときのノートや日記を引っぱり出して、原稿の執筆を行いました。

今でこそ、お菓子に関する原稿の執筆や技術指導などを行っていますが、製菓学校に通っているときは作業も遅く、失敗の連続でした。それでもなんとか今日までお菓子に関わって来られたのは、お菓子作りが好きで、とにかくあきらめずにやってきたからだと思います。日々、皆様から、上手くお菓子が出来ない、このままで菓子店を開けるだろうか、などのご相談をいただきますが、一所懸命に続けていけば、きっと道は開けると思います。

さて、次回からは、メルマガの内容を一新し、
毎回、ひとつのテーマを取り上げて、私が研究している、お菓子の歴史、言われなどのエピソードなどとともに、お菓子にまつわる行事、各国の珍しいお店等々を紹介していきたいと思います。

題して「猫井登のスイーツ面白事典」!  ご期待ください!


猫井 登

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。

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このメルマガは、日本創芸学院の「お菓子作り講座」をご受講いただいた方にお送りしています。

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