Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のお菓子修業日記>

vol.55
焼き菓子3種

<デモ開始>
今日は3種類の焼き菓子を作ってもらう。次回使うパイ生地の仕込みをやってもらうので 手早く作業をおこなうよう頑張ってほしい。

1つめは「パスティス・アプリコ」だ。ドライアプリコットをパスティスにつけたものを入れたパウンドケーキだ。パスティスというのは、アニス(八角)のリキュールで少しクセがあるので日本人にはあまり好まれないかも知れないが、フランスではよく使われるものだから覚えてほしい。焼き上がりにパスティスを入れたシロップを全体に塗って、少しだけオーブンに戻して乾燥させる。

2つめは「クルスティヤン・エ・モワルーショコラ」。チョコレート生地にアーモンド、ヘーゼルナッツ、ピスタチオをローストしたものを入れたものだ。隠し味にシナモンを少々入れる。

3つめは「栗のケーク」だ。生地にマロンクリームを練りこみ、マロンの砂糖漬けを入れ、 隠し味にダークラムを入れる。こちらは、シリコンの半球状の型を使って焼いてもらう。

<実習開始>
今日もお仕置きマダムと共同作業を行うのだが、朝からマダムのご機嫌が芳しくない。
「なんかさぁ~ ごたいそうな名前が付いてるけど、 要はパウンドとブラウニーじゃん。
特に3番目なんか、栗まんじゅうみたいだし。上級クラスで、なんでこんなもん作るのよ」
「フランス菓子の講座で、栗まんじゅう(笑)」
たしかに、ごもっともな部分はある。たぶん、次の授業で使用するパイ生地の仕込があるから作業の簡単なものになっているのだろうが。

とりあえず、作業を進めるが、再び、お仕置きマダムの声が!
「もう~、何よこれ!!、型からはずれないじゃない!栗まんじゅうのくせに、頭にくるわね!!」
よほど、栗まんじゅうが気に入らないらしい(大笑)
「どれどれ」
フレキシパンという樹脂製の型なので反対側から押し出すようにすれば、取れるはずだが、ありゃ、生地の一部が剥げた。どうやら底においたマロンのシロップが焦げ付いたようだ。う~む。。。

ふと気づくと、横でTさんが、難しい顔をしてオーブンの中のクルスティアン(ブラウニー?)をさっきからずっと眺めている。
「どうしたんですか?」
「それが、なんだか生地の状態がおかしくて。油がにじみ出して来るんだ。さっき小麦粉を上から振りかけたんだけど、止まらないんだ」
これは、もしかして。。そう分離だ!
クルスティアンはバターの配合が多いうえにチョコレートも入れ、それを卵液と合わせるわけだからよく混ぜてしっかりと乳化させなければならない。乳化していないと油がこのようににじみ出てきて生地がボソボソになると本に書いてあった。

簡単そうに見えるものでも実際に作ってみると、なかなか思ったようにいかないものだ。
慢心が起きるこの時期に、敢えてカリキュラムに入れた?というのは深読みのしすぎか。

上級クラスも終盤戦に入った。そろそろ卒業試験のケーキの構想も練らなければならない時期だ。
試験時間中に仕上げなければならないから、何度か試作もしてみないといけない。
しっかりしなくては。


つづく

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。

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