Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のお菓子修業日記>

vol.41 中級クラステスト

いよいよ、中級テスト当日。午前中は先生よりクロカンブッシュのデモ。クロカンブッシュというのは小さなシューを積み上げたお菓子。先生は見事な手さばきで作り上げていかれるが、気になるのは、試験のことばかり。
先生の御好意により、課題は2つに絞られているのでレシピは完璧に覚えられたが、どちらに当たるかが大きな問題だ。2つのケーキは、見かけは似ているが、マング・パッション・フランボワーズの方が、かなり作業工程が多い。

先生のデモが終わり、いよいよクジ引き。
ダメだぁぁ。
マング・パッションに当たってしまう。

◇◇◇

試験開始
2時間半で課題のケーキを作り上げなくてはならない。まず、ケーキの中に入れ込むフランボワーズのクレムーのディスクを作る。ここまでは、いい。

次に生地に模様をつけるためのカカオ風味のシガレット生地を作る。キチンと混ぜないと分離するので注意が必要だ。生地を拡げて、模様をつけるが、ダメだぁ。模様がかすれてしまった
なんでだぁ。前回の実習では上手く行ったのに。パレットで、こそげ取るようにする。かすれは、なくなったが、模様が不細工に。

時間が過ぎていく。この時点で完璧に舞い上がってしまう。
なんとかジョコンド生地を作り、模様の上に流し、生地を焼く。

生地が焼き上がるが、やはり模様が不細工だ。次に、マンゴーとパッションフルーツのムースにとりかかる。卵白を泡立ててメレンゲを作りながら、イタリアンメレンゲを作るためのシロップを作る。

砂糖に水少々を入れ、熱しドロっとすればよいのだが、手がすべって、水が多く入ってしまう。
少し長く、火にかければいい。そう思っていたのだが、いつまでたっても、ドロっとしてこない??
なんでだぁ???そのうちに、鍋の側面の砂糖が焦げてきた??

慌てて、メレンゲにシロップを流し込むが、シロップが、やはりドロっとしておらず、かなり、ゆるいイタリアンメレンゲになってしまった。これじゃあ、ダメだ。もう一度、イタリアンメレンゲを作り直しだ。ただでさえ、時間がないというのに、、、

もう一度、卵白を泡立てる。生地でも泡立てをやったので、3回目で、かなり疲れている。 今度は、水を少なめにしてシロップを作るが、なぜか、みるみる茶色に色づいてしまう。

マジ??火が強かったのか??

なぜ、シロップ作りなんかで2度も失敗するのか。泣きそうになり、頭が真っ白になる。
呆然として立ち尽くす。絶体絶命!!!

「ちょっと、アンタ、さっきから何をやっているのよ」
気がつくと、仲間が横に立っていた。
試験中は、私語は禁止だが、事情を説明する。
「砂糖の計量は、ちゃんとしたの?? おかしいわね。とにかく、落ち着きなさい!」

ようやく少し、落ち着きを取り戻す。時間がないので、選択肢は2つしかない。
①ゆるいイタリアンメレンゲを使う
②色づいたシロップでイタリアンメレンゲを作る。

結局、①でいくことにする。あとは、運を天に任せるしかない。
ともかく、ムースを作り、ディスクを埋め込み冷やしグラサージュを施す。
マンゴーの切り身をのせ、ともかく完成。

 

仲間に一喝され、我にかえらなければ、アブナイところであった。
審査用の別室のテーブルの上において、合否の結果を待つ。

結果は「合格」

一人ずつ、先生より講評を受けるが、生地の模様をもう少し細くした方がよいと言われただけで、ムースについては特に何も言われなかった。まったくもって、シロップ作りに、なぜ2回も失敗したのか。アガルというのは、そういうことなのかも知れない。

イタリアンメレンゲを作るたびに、この日のことを思い出す。仲間に一喝されたことと、ともに。


つづく

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。

◇◇◇

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