Sweets Specialist's WEB MAGAZINE

<猫井登のお菓子修業日記>

vol.39 カシスバニーユ

<デモ開始>
今日はビスキュイ・ア・ラ・キュイエールを使っていわゆるシャルロット仕立てのケーキを作ってもらう。ビスキュイ・ア・ラ・キュイエールの生地を作るときは、卵白をしっかりと泡立ててしっかりとしたメレンゲを作ることが大切である。そうでないと、粉を混ぜ合わせたときに気泡がつぶれて、緩い生地となり、絞ったときに流れて平板な生地となってしまう。

今日はこの生地さえ出来れば、モンタージュ(組み立て)は比較的簡単である。具体的には生地をセルクルの側面と底に敷き込み、ヴァニラのシュープレーム(ムース)を半分くらい流し込んだところにカシスのジュレのディスクと生地を入れ、再びシュープレームを流し込む。

仕上げは、表面にカシスのグラサージュを流し、フレッシュのカシスを飾れば終了である。

デモ終了後、先生のお手本を試食中に来週の修了テストの課題が発表される。

試験課題は10個あり、そこから当日2~3題が出題され、クジで引いたものを各自作ることになる。作り方は、もちろんのこと、レシピも持ち込めないので、各ケーキの配合を逐一暗記しなければならない。中級で作ったケーキは、生地の種類も色々ある上に、各種クリーム、ムース、ジュレと色んなパーツがあるので、10種類のケーキのレシピを覚えるのはかなり大変だ。

ここは、ヤマを張るしかないか。
パイは、1日では出来ないので、出題の可能性はないので除外。
あとは??
私が課題表とにらめっこしていると、先生が突然、私の表を取り上げて??
サインペンでどんどん課題を消していく。で、返してくれた!?
「このクラスは私が最後まで受け持つ最後のクラスだし、人数も少ないから大サービス!!」

みんなが、私の席を取り囲む。残った課題は今日作ったカシス・ヴァニーユと前々回作ったマングパッションフランボワーズの2つ。試験課題が10個→2個は、大助かり!みんなで先生に感謝。

<実習開始>
まずは、カシスのジュレを作り、冷凍しておく。次にビスキュイ・ア・ラ・キュイエールを作るためのメレンゲを泡立てる。ここで失敗すると全てが崩壊するので必死に泡立てる。卵黄や粉を合わせ、生地が完成。

次は、これを絞り袋に入れて天板に絞っていくのだが、ビスキュイ・ア・ラ・キュイエールは、山と谷がハッキリしているものが美しいとされる。要は生地の凹凸をハッキリとさせることがポイントだ。そのためには生地が焼くと膨らむことを考慮して、1本1本の間に適度な間隔をおいて絞ることが要求される。しかし、この幅が広すぎると、生地が繋がらない。この辺の調整が難しい。底生地の部分は渦巻き型に丸く絞る。

生地をオーブンに入れ、一旦、テーブルの上を片付け、ムースの準備に入る。
生地が焼き上がる。なかなかいい感じだ。とりあえず繋がっているので、ひと安心。生地にモノサシをあて、正確に長さを測り、切り分けてセルクルの側面と底に敷き込んでいく。

ムースの作成にとりかかる。ここまでくれば、ムースとジュレ、生地を順番に入れていけばいいだけなので、あとは気が楽だ。

「いやだー、信じられない」 助手さんが突然大声を上げた。
助手さんが声を上げたのも無理はない。クラスメートのRちゃんがたったの45分でケーキを完成させてしまったのだ。Rちゃんは、基礎から同じクラスなのだが、
いつもトップで作業を終了。今まで特に調理や製菓の経験は、ないというのに、生まれつきの才能を持った人間とは、かくも凄いものか。

余談になるが、いつもRちゃんはトップで終了するので私はある日、一体なにが私と違うのかを、じっくりと観察したことある。ちょうど、タルトの日だったのだが、
計量までは、私が速かった。しかし、生地作りに入った途端に、あっさりと追い抜かれてしまった。一つ一つの動きに無駄がなく、ツボを得ていて、あれよあれよと言う間に生地が練り上がっていった。

私はと言えば、こね方に無駄が多く(たぶん)、まだ全然、生地がまとまっていない。 同じように授業を受けたにもかかわらず、この差!これを才能と言わず、なんと言えばいいのか。

ようやく、鈍才の私も、カシス・ヴァニーユを完成。
鈍才なりの、まぁまぁの出来か(笑)
次回は、テストだ。

つづく

 

プロフィール:
猫井 登(ねこい のぼる)
1960年、京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理師科で学び、調理師免許を取得。ル・コルドン・ブルー代官山校で、菓子ディプロムを取得。その後、フランスのエコール・リッツ・エスコフィエ、ウィーン、ロンドン等で製菓を学ぶ。著書:「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス)、「スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版)、「お菓子ノート」(新人物往来社)ほか。

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