ハーブ・アロマ メルマガ 「佐々木薫先生のエッセイ」
vol.32
アロマで虫よけ、シトロネラ
いよいよ6月、多くのハーブは最盛期を迎えます。成長力旺盛、見るからに生命力を感じますが、香りももっとも高くなる時期です。花に香りがあるのは、昆虫を引きつけ、受粉に役立てるための戦略とされていますが、逆に虫が嫌がる香り、虫を遠ざける香り(精油)を自らの防衛のために作り出す植物もあります。その代表が、シトロネラです。
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シトロネラは和名をコウスイガヤ(香水茅)といい、ツンとしたレモンの様な香りを持つイネ科のハーブです。レモングラス、パルマローザなどと同属です。原産はインドで、宗教儀式などに使われたという説もありますが、現在の主要産地は、スリランカ、インドネシアなどの熱帯アジアです。植物は光合成により酸素とエネルギーを作り出し(一次代謝)、そのエネルギーを使い個々の目的に沿った二次代謝物を産み出しますが、香り(精油)もそのひとつです。ヒトが体内で合成することができない「植物の恵み」は、私たちの心身に対しいろいろな効果も提供してくれ、虫よけなどに活用することもできます。
人間が防虫のために植物を利用してきた歴史は古くからあり、日本では正倉院の宝物にも残されています。えび香、薫衣香と呼ばれ、袋に詰めた匂い袋の原型の様なものがあり、また、空薫きと言って部屋に焚きしめたりなどもされました。衣服や書物を守るため、使われたのは丁子(クローブ)や白檀などです。蚊取り線香の匂いに夏を感じる人も多いかと思いますが、本来の主成分は「除虫菊」というキク科の植物です。花に有効成分ピレトニンを含み、これに殺虫作用があります。むし暑い日本の夏に虫よけは欠かせず、他には蚊遣(かやり)火(び)としてカヤ、スギ、マツ、橘の皮、ヨモギ、椿の落花などをいぶし、蚊を追い払ったそうです。ですから、精油に防虫効果を持つものがあり、虫よけのためにアロマを楽しむというのは、日本人の生活には比較的なじみがあることかと思います。
最近は蚊を媒介とする感染症の問題も他人事ではなくなり、より、虫よけ、特に蚊よけ剤に対する関心が高まっています。しかし、市販の防虫スプレーなどは、その目的のためにアメリカ軍で開発された強力な成分「ディート(DEET)」が使用されており、その安全性が問われ、カナダなどでは子供の使用に制限があります。そこで着目され始めたのが、植物が持つ虫よけ効果です。
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シトロネラやレモンユーカリが含む「シトロネラ―ル」という成分に防虫効果があることがわかり、虫よけスプレーとして商品化もされています。原産地というより、ディートの安全性に関心の高い、アメリカなどで人気が高いようです。もちろん日本でも話題です。シトロネラの精油には虫よけ効果もありますが、香りとしての魅力も十分あります。フレグランスを楽しみながら、その実用性も十分期待できる、シトロネラの香りは日本の夏に欠かせない香りになるのではないでしょうか。
日本園芸協会 指導部 佐々木薫
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