ハーブ・アロマ メルマガ 「佐々木薫先生のエッセイ」
vol.21
ラベンダーの風に吹かれて
南仏プロヴァンスを彩る、真正ラベンダーの最盛期が7月初旬です。原産地はスペインからカナリア諸島、地中海沿岸といわれますが、古代ローマの本草学書、ディオスコリデスの『薬物誌』には「煎じ汁は胸部の痛みに効き、解毒剤にしても有効」とあり、ラベンダーが2000年前頃から、すでに薬用に用いられていたことがわかります。ここでいうラベンダーとはストエカス種のようです。古代ローマ人達の建設した公衆浴場では、沐浴にラベンダーの束で体をたたいたといいますし、イギリスにラベンダーを伝えたのもローマ人といわれます。
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この時期、マルセイユから地中海沿岸、コート・ダ・ジュール地方を訪れると、街のあちこちでラベンダーを見かけます。明るい太陽、真っ青な空と乾いた空気に、ラベンダーはよく似合います。一方、精油やハーブティーに使うラベンダーの畑は、このマルセイユからアルプスに向かって北上した、奥プロヴァンス地方に広がります。開花の頃は農道がドライブコースにもなり、それはもう夢のような風景です。
オート・プロヴァンス県のヴァランソール高原あたりを中心に、標高500m以下の低地を彩るのは、交配種「ラヴァンディン」の畑です。草丈も50cmから100cmあり、その姿は雄々しいほどです。採油率も高く、暑さにも比較的強い品種ですが、真正ラベンダーとスパイクラベンダーの自然交配種とも言われます。
プロヴァンスの道は中々険しく、急カーブの続く山道を上がり、標高800m以上になると現れるのが、真正ラベンダーの畑。生育地域はアルプ・ド・オート・プロヴァンス、オート・ザルプ、ドローム、ヴォークリューズの4県にまたがります。この地域の800m以上の畑で生産されたラベンダーから抽出した精油を認証する「AOC(Appellation d'Origine Controlee原産地呼称)制度」もあります。
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ラベンダーは農産物のひとつですが、1800年代頃までは、山岳地帯に自生していたものを羊飼いが刈り集め、グラースの香料会社に売っていたといいます。20世紀の香料産業の繁栄と共に芳香植物の需要が拡大し、畑が作られ、蒸留作業も畑の近くで行われるようになり、ラベンダーの香料生産がこの地方の産業のひとつとなっていきました。芳香成分が最高の時期に刈り取り、一気に蒸留する、この時期、一面紫色だった畑が、刈り取られ、日々緑に変わっていきます。まるで動くパッチワークのような光景です。
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北海道富良野地方のラベンダーも、元はこのプロヴァンスから持ち込まれたものです。天然香料の国内生産を目指し、各地で試験栽培が行われ、最終的に残ったのが富良野地方でした。このエリアの人たちが、ラベンダー生産に一番熱心だったということでしょうか。
ハーブとしても精油としても一番人気のラベンダーですが、開花の時期はぜひ、フレッシュの香りを味わっていただきたいと思います。花だけでなく葉、茎、全草に持つ芳香成分を、満喫して下さい。
日本園芸協会 指導部 佐々木薫
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