ハーブ・アロマ メルマガ 「佐々木薫先生のエッセイ」
vol.20
桜餅の香りの正体、甘い香りのするハーブ
サクラ前線が日本列島を駆け抜けて行きます。サクラは日本の国花であり、一番の人気者、単に花が美しいというだけでなく、人それぞれに思い出もあり、心に響く花とも言えるでしょう。サクラは花にもほのかな香りがありますが、サクラを連想する香りといえば、「桜餅の香り」です。サクラと共に桜餅も店頭からは消えていきますが、その香りの元は花ではなく、葉です。正確にはオオシマザクラの葉の香りと言いますが、生の葉には匂いは感じられず、塩漬けにし、寝かせて初めて、あの甘い香りが出てきます。他のサクラにもわずかながら同じ香りが含まれるようですが、同様に生の状態では香らず、揉んだりしてもダメなようです。
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桜餅の香りの正体は、クマリン(C9H6O2)という芳香成分です。生葉の中では他の物質と結びついているため、匂いはしません。抗酸化物質のポリフェノール/フェノール酸系に分類される香り成分で、抗菌作用、エストロゲン様ホルモン作用、光感作促進、抗血液凝固などが知られ、血栓防止薬としても利用されています。
クマリンを含む植物は、セリ科、マメ科、キク科などに多く見られます。桜餅の香りのするハーブですぐに思いつくものというと、まずは秋の七草のひとつでもある、キク科のフジバカマ(Eupatorium japonicum)でしょう。乾燥、もしくは生乾きの茎や葉に香りがあります。フジバカマは生薬にもなり、古くは利尿作用のある薬草として用いられたといいます。湿り気のある場所を好み、川岸や土手などに広く自生していましたが、開発による護岸工事などで河原の減少の影響で、現在は環境省レッドデータリストの準絶滅危惧Ⅱ類(NT)となっています。
![]() ▲フジバカマ |
他にはイネ科のスイートグラス(Hierochloe odorata)があります。ホーリーグラスとも呼ばれ、ホワイトセージ同様、浄化の儀式などに用いられたり、ヨーロッパでは教会の床などに敷いて消臭に使われたりもしました。また、バイソングラス、バッファローグラスなどの名もあり、このハーブで香りをつけたポーランドのウオツカ、「ズブロッカ」が有名です。
甘い香りは人気がありますが、クマリンは肝障害を誘発することがわかってきました。日常の食生活の中で料理やお菓子などにスパイスとして使う場合は、量が少ないため心配はいりませんが、過剰摂取には注意が必要です。たとえばおなじみのシナモンもクマリンを含みます。また、フジバカマなどを効能目的で薬草のように栽培するのもおすすめできません。現在園芸店などで出回るフジバカマは本種でなく、同属異種または近縁種との交配種であることが多く、薬効はほとんど期待できないことも理由のひとつです。
端午の節句にはショウブやヨモギ、ハーブを通して季節ごとの日本の美しいならわしを再認識するのも楽しいですね。
日本園芸協会 指導部 佐々木薫
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